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帝国末期の奔放な女性像~映画「エリザベート1878」 [映画時評]


帝国末期の奔放な女性像~映画「エリザベート1878


 座席につくと周りは女性ばかりだった。世紀末のヨーロッパ、美貌をうたわれたオーストリア皇后の自由奔放な生き様を描いた。そんな惹句が効いたのか、典型的な女性映画とみられたようだ。しかし、そんなつもりで観た人は面食らったのでは。

 原題は「CORSAGE」。女性のコルセットである。細いウェストをさらに細く締め上げる。まるで拷問。こうして細いウェストのエリザベート(ビッキー・クリーブス)はバルコニーから微笑みをたたえて手を振る。自室に戻ったとたん、嘔吐する。コルセットは皇后の座の象徴であり、そこにまつわる数々の風習をも指しているようだ。コルセットをいつ脱ぎ捨てるか。彼女の大きな命題となっていく。
 エリザベートが40歳になった18781年間を追った。1000年にわたりヨーロッパを支配した神聖ローマ帝国(ハプスブルグ帝国)は落日の日々を送り、オーストリアとハンガリーのみが帝国を形成していた(オーストリア=ハンガリー帝国)。
 1878年はベルリン条約が結ばれた年でもある。オーストリア=ハンガリー帝国がボスニア施政権を手にし、セルビア公国がオスマン帝国から独立した。第一次大戦の引き金となった1914年サラエボ事件の時限装置が、この時動き始めたともいえる。オーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者を暗殺した青年は大セルビア主義者だった。殺害されたフランツ・フェルディナントにサラエボ行きを命じたのは皇帝フランツ・ヨーゼフ1世、つまりエリザベートの夫だった。オーストリア=ハンガリー帝国は大戦の敗北によって幕を閉じた。

 一見、史実を忠実に再現したかのようだが、実は最も肝心な部分がフィクションになっている。ルードヴィヒ2世(マヌエル・ルバイ、ルキノ・ヴィスコンティが映画化した)との奔放な関係、落馬事故の後、夫ヨーゼフ(フロリアン・タイヒトマイスター)をベッドで全裸で待ち受けるシーンなど自由な女性像が描かれる。タバコもヘロインも吸う。映画の作り手としては「暗殺」という史実に沿うのではなく、イタリアの海に身を投げるという結末が必然だったのだろう。その決着のつけ方を、あなたはどう受け止めるか。
 冒頭に書いたように、この映画は俗にいう「女性もの」をはるかに超えている。
 2022年、オーストリア・ルクセンブルク・ドイツ・フランス合作。マリー・クロイツァー監督・脚本。


エリザベート.jpg



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