SSブログ

ドタバタに終わらない深さ~映画「女優は泣かない」 [映画時評]


ドタバタに終わらない深さ~映画「女優は泣かない」


 不倫スキャンダルを報じられ、一時期干された園田梨枝(蓮佛美沙子)は再起を期して故郷・熊本に10年ぶり帰ってきた。空港で待つのはテレビ局AD瀬野咲(伊藤万理華)だった。ドラマ部への配転を望む彼女には意に添わぬ仕事だった。
 帰郷した女優の密着ドキュメンタリーを撮る。これが上司の命だった。ところが、ドラマ志向が強い咲はシーンごとのセリフまで脚本に書き込む。「やらせでは」と梨枝は反発し戸惑う。父・園田康夫(升毅)と喧嘩同然で東京へ出た梨枝は、この帰郷も実家に知らせずにいた。
 こうして、崖っぷちに立つ二人のドタバタ劇が始まった。二つの摩擦が絡み合って火花を散らす。一つは撮影を巡る、もう一つは家族との。前者は、表面上は派手だがそれほど重くはない。論理の問題だからだ。後者は地味だが重く複雑である。情が絡むからだ。

 父はがんに侵され、寝たきり状態だった。母の法事にも出なかった梨枝に家族は怒りの目を向ける。姉の飯塚真希(三倉茉奈)に「家族と仕事と、どっちをとるの?」と問われ「仕事」と答える梨枝。一方で高校の同級生・猿渡拓郎(上川周作)の運転するタクシーで「仕事をやめようかな」と弱音も。拓郎は「この町のヒロインなんだから、俺たちの前ではカッコつけてよ」と励ます。
 このやり取りは、深い。古くからの土着を生きるか関係の絶対性を生きるか、に似ている。土着の思想に足元をすくわれ回帰した例は「転向」と呼ばれた。この作品でも、梨枝が「お姉さんは手の届く世界でしか生きてこなかったから、分からないのよ」と愚痴るシーンがある。大情況か小情況か、無限責任か有限責任か、と言い換えられるかもしれない。

 父・康夫の臨終に、梨枝は駆けつける。そこで一つの仕掛けを、咲に頼む。タイトルに絡む、鮮やかな回収劇がラストを飾る―。

 2023年製作。CMディレクターやテレビドラマ監督をやってきた有働佳史の初の長編映画。自身の故郷を舞台にした。


女優は泣かない.jpg


nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。