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火葬のない国の極秘計画~映画「6月0日アイヒマンが処刑された日」 [映画時評]


火葬のない国の極秘計画~
映画「6月0日アイヒマンが処刑された日」


 アドルフ・アイヒマン。ナチ親衛隊員。ユダヤ人絶滅収容所移送の最高責任者。戦後逃亡を続け1960年、潜伏先のアルゼンチンでイスラエルの諜報機関モサドに身柄を確保された。翌年4月、いわゆるアイヒマン裁判が行われた。大戦中に米国に亡命したユダヤ系哲学者ハンナ・アレントが「ザ・ニューヨーカー」誌の求めに応じて取材。「凡庸な悪」と書いたことが波紋を呼んだ。12月に死刑判決が下り、執行は5月31日から6月1日の間とされる(明確には公表されていない)。この時の模様を一人の少年の目を通して描いた。

 61年イスラエル。リビアから一家で移住してきたダヴィッド(ノアム・オヴァディア)は、父に連れられ鉄工所で働くことに。貧しさから時折盗みを働き、偶然、社長ゼブコ(ツァヒ・グラッド)が極秘計画を練っていることを知る。持ち込んだのは、かつての戦友ハイム(ヨアブ・レビ)。遺体の焼却炉を作る。設計図はアウシュビッツの焼却炉のそれだった。かつて多くの同胞を焼いた炉で、アイヒマンを焼く―。
 計画を盗み聞いたダヴィッドは捕まるが、ばれることを恐れたゼブコはそのまま働かせた。少年は火葬の顛末を見守った。

 アウシュビッツ収容所の展示物に、初期のころユダヤ人の遺体が野焼きされる写真があった(どうやって撮影したのだろう)。その後、収容所内に火葬炉が作られ、連日黒い煙が上がったという(炉はなんと将校のレストランの前にあった)。ユダヤ教は火葬を禁じ、戦後イスラエルでは土葬のみが許された。こうした事情を承知で、ナチスは火葬を強行した。アイヒマンの処刑後については、遺体の痕跡さえ残さないことが至上命題だった。ネオナチによるヒーロー化を避けるためだ。遺灰はイスラエル領海外にまかれたという。

 映画では、アイヒマン裁判の主任捜査官で絶滅収容所の生き残りミハ(トム・ハジ)の回想談が絡む。関連が希薄でなんともわかりにくい。少年の目撃談一本で掘り下げたほうが、内容あるものになっただろう。面白い素材だが、エピソードがエピソードに終わっている点が惜しい。
 2022年イスラエル、アメリカ合作。監督・共同脚本ジェイク・パルトロウ。
    ◇
 戦争にもルールがあることを、国際人道法は示した。このルールが破られた時の痛みを、人類史上最も不幸な形で味わったのはユダヤの人々だった。しかし今、この民族によって作られた国が、人道無視のジェノサイドに手を染めている。これ以上の悲惨があるだろうか。イスラエルは今すぐガザから手を引くべきだ。


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