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戦後のヨーロッパを変えた人~映画「シモーヌ」 [映画時評]


戦後のヨーロッパを変えた人~映画「シモーヌ」


 シモーヌ・ヴェイユ(19272004)。同化ユダヤ人の家庭に生まれ、フランスの行政官からEU議会議長に上り詰めた。精力的な生涯の背景には、壮絶なアウシュヴィッツ体験があった―。そんな映画である。「同化ユダヤ人」という聞きなれない言葉、大まかには宗教、結婚相手などを「ユダヤ」に限定しない、住む国の環境に合わせる、ということらしい。

 冒頭、一人の老婦人が原稿を書きながら追想にふけっている。それは、やがて「自伝」になる予定だった。のどかな風景は一転、激しい議論の場面に。1974年、シモーヌはシラク政権の厚生相として人工中絶の合法化(ヴェイユ法)を成立させた。
 前半は少女期からアウシュヴィッツ体験を経て生還。パリ大学、パリ政治学院を経て結婚、育児にいたる生活を描く。家庭の主婦にとどまることに疑問を抱き、弁護士を目指すと宣言。家族の賛同を得られず行政官で妥協。「自由と博愛」のフランスが意外に不自由で保守的であることが伝わる。

 後半、アウシュヴィッツ体験が前面に。ヴィシー政権下の1944年4月、一家は連行される。貨物列車に詰め込まれ、厳寒と食糧難の収容所生活。3か月後にアウシュヴィッツ内にあるボブレク収容所に送られ命をつなぐ。ポーランド人のカポ(労働監視員)の配慮らしい。食糧事情などがややよかったのだ。翌年1月、ソ連軍が迫りドイツ領内ベルゲン・ベルゼン収容所への「死の行進」を強いられた。倒れれば即銃殺。なんとかたどり着いたが(夫は消息不明)、母は直後に亡くなった。
 こうした恐怖の体験が詳細に映像化される。シモーヌの思想の土台をなすからだ。戦後の歩みとアウシュヴィッツ体験が交互に描かれる中で、戦後再会した夫の「EUを結成したことで(シモーヌは)20世紀と和解することができた」という言葉が紹介される。悲劇を繰り返さないため、ヨーロッパの国同士が戦争をしない仕組みが必要、という思いが込められている。

 この稿を書くにあたってウィキペディアを参照した。ハンナ・アーレントの「アイヒマン=凡庸な悪」論を「すべての人に罪があるというのは、だれにも罪はないというのと同じだ」と批判するシモーヌの言葉が興味深かった。実際に死と直面したシモーヌと、連行前に米国に亡命したアーレントの、体験の違いが背後にあるのか。もちろん、それだけではないだろうが。
 フランスの戦後をリアルに生きた、反骨と信念の人。世界を変えたかどうかは分からないが、ヨーロッパを変えた人の一人。
 2021年、監督オリヴィエ・ダアン。

 少女期を除き、二人の俳優がシモーヌを演じた。時間軸が入り組んでいるため、キャストは別に紹介する。
 エルザ・ジルベルスタイン(シモーヌ19682006
 レベッカ・マルデール(シモーヌ19441965
 オリヴィエ・グルメ(夫のアントワーヌ)
 エロディ・ブシェーズ(母のイヴォンヌ)


シモーヌ3.jpg


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