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高齢者の性を直視~映画「茶飲友達」 [映画時評]

高齢者の性を直視~映画「茶飲友達」


 茶飲友達―茶を飲みながら世間話をする、気のおけない親しい友達。多く老人の場合にいう(国語大辞典から)。縁側やベランダで、年老いた仲間同士がほっこりした気分で茶をすする。そんな情景が浮かびそうである。しかし、映画「茶飲友達」は違う。高齢者の性と向き合う、ハードな社会派ドラマである。
 「ティー・フレンド」は高齢者向けの売春あっせん業。差し向けられるコールガールも、高齢者である。実際に摘発された事例に基づいている。
 確かに、ありそうな話である。高齢化社会の進行とともに、配偶者をなくし一人暮らす老人は多い。男性の場合、性欲は簡単にはなくならない(松本清張「けものみち」がいい例)。女性の場合、生活に困窮するケースが多くみられる。年金だけでは暮らせないからだ。そこで、金銭を媒介にして男性と女性をカップリングすれば、失いかけた生きる手ごたえも、取り戻すことができるかもしれない―。

 妻に先立たれた時岡茂雄(渡辺哲)はある日、新聞の三行広告に目を止めた。「茶飲友達、募集」。時岡は連絡を取った。その日から、新しい世界が始まった。自炊と路上掃除を繰り返す単調な毎日とは違った世界が。
 「ティー・フレンド」を経営するのは佐々木マナ(岡本玲)。「ティー・ガールズ」と呼ばれる女性(高齢コールガール)を抱え、男性の待つホテルへ送迎していた。彼女には、この仕事は単純な売春あっせんではないという自負があった。高齢男性の孤独な心を埋め、生きる目的を失った女性たちの支えになる。社会の保健室、と位置付けていた。
 一人の女性が軸になって、ストーリーは進展する。松子(磯西真喜)は一人暮らし。スーパーで万引きを働き、店員に呼び止められたところをマナに救われた。いったん自殺を図るが、マキの呼びかけに応じてみようと思い直す。こうして「ティー・フレンド」の一員になった。恐る恐る踏み込んだ世界だが、日に日に表情が明るくなった。
 「ティー・フレンド」は老人ホームにも手を伸ばし、営業を拡大させた。そんな時、事件が起きる。客の男性が不慮の死を遂げたのだ。
 警察の手が伸び、マナは逮捕された。取調室。「最後のセーフティネット」「高齢者の寂しさを埋める手伝い」と主張するマナに対して取調官は「ルールはルール」「自分の寂しさを他人の孤独で埋めるんじゃないよ」といさめる。売春業に手を出すマナを嫌っていた母親が面会に来る。なんで来たの、と問う娘に母は「家族だよ」と応じる。

 際物ではない。社会派ドラマとして成立している。それだけの奥行きがある。高齢者同士のベッドシーンもあるが、老醜ではない。一線で止めているところがいい。
 2022年、監督外山文治。


茶飲み友達.jpg


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