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「大東亜共栄圏」の虚妄を突く~濫読日記 [濫読日記]

「大東亜共栄圏」の虚妄を突く~濫読日記


「太平洋戦争秘史 周辺国・植民地から見た『日本の戦争』」(山崎雅弘著)

 「太平洋戦争」「アジア・太平洋戦争」と呼ばれる先の大戦は、かつて「大東亜戦争」と称した。大東亜共栄圏の確立を目指し、欧米の植民地支配からアジアを解放する戦いとされた。根拠は、開戦から1か月半たった19421月の東條英機首相演説にあった。そこで東條は「一〇〇年間にわたって米英の搾取に苦しんできたアジア諸国を解放し、大東亜永遠の平和と、帝国(日本)を核心とする道義に基づく共存共栄の秩序を確立する」と、戦争の意義を述べた(64P)。
 あの戦争に、アジアの国々を解放する大義はあったのか。「太平洋戦争秘史」は、具体的な事例を通して、このことを問い直した。

 例えば仏領インドシナ。フランスはドイツが侵攻した翌年の1940年に親ナチのヴィシー政権が樹立され、ドイツ寄りの国になった。つまり、日本にとっては「味方」の国である。日本がインドシナ半島を重視したのは中国戦線・援蒋ルート(米英による蒋介石軍援助のための兵站ルート)があったからで、これを無効化することが第一の狙いだった。こうした背景のもと41年、日仏共同で仏印全域の防衛にあたるという軍事協定が結ばれた(63P)。
 こうした経緯を見ても、日本は仏印の共同支配者になっただけで「解放の旗手」などではなかった。戦争末期には、食糧不足を補うため日本軍がコメの供出を強制し、深刻な飢饉を招いたことが民族運動の台頭を招いた。

 マラヤ・シンガポールは英国領だったが、日本軍は新たな支配者として登場、英国をはるかに上回る残忍さを発揮した。ここでは中国戦線情勢を受けた中国系華僑の反日ゲリラ行動が背景としてある。ゲリラ活動は中国系人民の海をバックに行われ、判別がつかない日本軍は、中国系人民の無差別虐殺に走った。戦後のマレーシアの資料によると、中国系の犠牲者は数万人に上るという(105P)。日本軍は解放軍どころか殺人鬼だった。

 フィリピンはアメリカの植民地だったが1934年、フィリピン独立法を成立させ、10年後の44年独立を認めていた。侵攻した日本軍に対して初めは歓迎ムードだった市民は、高圧的で偏見に満ちた軍の態度に反発し、抗日ゲリラが増大した。アメリカは日本に比べ寛容で、欧州諸国ほど資源や産物を植民地から入れる必要がなかった(自国で賄える)ためと思われる。

 英国領だったインドの独立に、日本はほとんどかかわっていない。そのこともあって独立の経緯は複雑である。第二次世界大戦は民主主義を旗印にする連合軍とファシズムの枢軸国の戦いだった。一方で、インドから見れば独立を勝ち取るには反英闘争強化が必要だった。民主主義か独立か。インドの民族運動は三つに分かれた。
 まず国民会議派のカリスマ的指導者ガンジーとネルー。非暴力の民主主義を唱えた。これに対して「敵の敵は味方」の立場がチャンドラ・ボース。英国の敵である日本に接近した。もう一つはイスラム派だった。アジア解放の旗手としての日本軍は、ボースの場合を除き、ここでは登場していない。

 このほかにもモンゴルやビルマ(ミャンマー)の事例を通してアジア・太平洋戦争での日本軍の行動が紹介された。いずれも「大東亜戦争」の虚妄を突いている。日本からではなく、アジア各国の視点に立ち、先の大戦のアウトラインを浮き彫りにした。山崎雅弘には、同様の視点での「第二次大戦秘史」がある。2冊とも読むことを勧めたい。
 朝日新聞出版、1200円(税別)。



太平洋戦争秘史 周辺国・植民地から見た「日本の戦争」 (朝日新書)

太平洋戦争秘史 周辺国・植民地から見た「日本の戦争」 (朝日新書)

  • 作者: 山崎 雅弘
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2022/08/12
  • メディア: 新書


 


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