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4人一幕の圧倒的な「語り」~映画「対峙」 [映画時評]

4人一幕の圧倒的な「語り」~映画「対峙」


 ある高校で銃乱射事件があり、犯人の少年を含め11人が亡くなった。6年後、加害者と被害者の夫婦4人が教会の一室に集まり、それぞれ胸の内を語る。ほぼ全編そのやりとり。

 冒頭、教会関係者や仲介役のカウンセラー、ケンドラ(ミシェル・N・カーター)が出るが、後は4人だけの一幕もの室内劇。ぎこちない会話の後、お互いの息子、娘の写真の見せあいがあり、徐々に言葉がとげとげしくなっていく。
 クライマックスは被害者の夫婦(ジェイ=ジェイソン・アイザックス、ゲイル=マーサ・プリンプトン)が語る、少年の最期の模様。捜査や現場のカメラ映像などに基づくとみられる6分間が再現される。撃たれた後、息のあった息子は、這って逃げようとしたことが血の跡から分かっている。そこへ戻ってきた犯人が、無表情のまま頸動脈を撃った、という。加害者側の夫婦(リチャード=リード・バーニー、リンダ=アン・ダウト。二人はこの時離婚している)の表情がひきつる。
 こうして、抑制しながらも噴出する怒り、後悔、懺悔(リンダは「私は殺人者を育てた」と涙ながらに語る)といったさまざまな感情がむき出しになる。
 正直、この映画の着地点はどこにあるのだろう、と若干心配になったが、やがて教会の一室で練習中の讃美歌が流れ「GOD WITH US」と壁の文字が映り「我々には平穏な時間が必要だ」と4人のうちの一人がつぶやく。リンダが「私の物語はあなた方と違いすぎる」と涙ながらに語るとゲイルが「そうね。問いかけなくて悪かったわ」と応じる。そして幕引き。原題「Mass」(ミサ)の意味が、ここで明らかになる。

 いかにもキリスト教の国アメリカ的な終わり方。無宗教の日本では考えられないが、そこはともかく、4人の圧倒的な「語り」のシーンは見るべき価値がある。
 2021年製作。監督フランツ・フランクは初作品。力量はなかなか。


対峙.jpg



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