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衝撃の結末を呼ぶ心理ドラマ~映画「別れる決心」 [映画時評]

衝撃の結末を呼ぶ心理ドラマ~映画「別れる決心」


 目で芝居をする、という。表情さえ変えず視線の動きだけで情景を作り出す、そんな芝居。男女の心の動きだけを追ったこの「別れる決心」も、目で芝居をする映画だった。
 パク・チャヌク監督は暴力とエロス渦巻くシーンが印象に残るが、ここでは封印された。しかし「エロス」が全くないかといえば、それも違う。二人の間の、許されることのない恋情。それがお互いの視線にまとわり、意表を突くアングルによってとらえられる。これがエロスでなくて何だろう。

 霧が深いことで知られるある町の郊外で、趣味のクライミング中の男性が転落死した。自殺か他殺か。捜査に乗り出した刑事ヘジュン(パク・ヘイル)。男性には中国人の若い妻ソレ(タン・ウェイ)がいた。尋問を繰り返すうち、二人にはある感情が沸き上がった。

 ソレをめぐって、二人の男が相次いで亡くなった。ヘジュンは、事件の裏に潜む殺意のありかがまったく違うことに気づいた…。
 最初の事件(転落死)は事故として落着した。しかしその後、スマホを使ったアリバイ工作を突き止めたヘジュンは、真相を胸の内にしまい込んだ。DVに悩んだ末の犯行だった。
 二つ目の事件。ソレの夫となった男性がプールで刺殺された。捜査によって、夫とある男性の確執が明らかになった。その男性にある工作を仕掛ける(介護士だったソロが、母親に薬を過剰摂取させる)ことで怒りを増幅させ、夫殺しを決意させたのだった。
 第一に比べ、第二の事件はソレの犯意が弱いことが分かる。なぜか。ヘジュンの視線を自分に引き付けたいと思う「動機」が大きな比重を占めていたからである。

 刑事と被疑者という、越えられない壁。しかし、ヘジュンの視線を自分に向けさせたい。この感情は、思いもつかないラストシーンへとつながる。視線を向けさせ、永遠に記憶に残させる方法。それは、死後の自分の遺体を見せないことであろう(遺体を見せれば、二人のストーリーは幕を閉じる)。
 なんとも、究極の心理ドラマである。そして、アリバイ工作だけでなくスマホが各所で効果的な小道具として使われていることが印象に残る(韓国語がうまくないソレの簡易な翻訳機としても使われていた)。
 なお、ソレの祖父が満洲国で朝鮮人解放軍の兵士だったことが明かされる場面があるが、どのような意味づけがあったのかよくわからなかった。
 2022年、韓国。


別れる決心.jpg


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