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あの熱い季節はもう蘇らないのか~濫読日記 [濫読日記]

あの熱い季節はもう蘇らないのか~濫読日記


「対論1968」(笠井潔 絓秀実 聞き手 外山恒一)


 世界的な運動だった「1968」は日本でも一定の盛り上がりを見せた。しかし、世界に比べ「果実」が少なく、一面の焼け野原のようだ。なぜこうなったのか。「1968」の渦中にいた二人が、あの時代を振り返った。
 笠井はいいだももをトップとした共労党の活動家、絓は学習院大全共闘のメンバーで「1968年」(2006年、ちくま新書)の著書を持つ。二人は三派全学連や全共闘ノンセクトが入り乱れた中で小セクト、小集団(東大や日大に比べれば)の一員だった。1970年生まれの外山はファシストを自称、若いころは極左思想を持ち、現在は全共闘運動の研究家でもある。
 必ずしもメーンストリームにいなかった人たちが運動を語ることには意味がある。中心点より辺境にいたからこそ全体の流れが見えるというのが世の常だからだ。

 ポイントは三つある。

 一つは、国民的大闘争だった60年安保と「1968」はつながっているか。言い換えれば70年安保闘争は存在したのか。
 この点で笠井、絓とも否定的である。「1968」の起点は前年の10.8にあり、佐世保のエンプラ阻止など激動の7か月を経て、学園闘争が燎原の火のごとく全国に広がった。10.21新宿騒乱があり、この時点までは「いけるかもしれない」という気分があった。忘れてならないのは10.8の前段としてセクト主導による砂川基地拡張反対闘争があったこと。一連の流れは砂川闘争→国会前デモという60年安保の再来を狙ったものだった。
 しかし、10.8はともかく、学園闘争になると自然発生的な群衆(学生)が主役で、大学自治会、労組が運動の受け皿だった60年とは全く違う様相となった。セクトの思惑とは違って60年とは切断された闘争になったのである。その意味で60年の再来はなかったし、70年安保闘争も実体としてはなかった。この点は私も同感する。そのことの象徴として、樺美智子は国民的英雄になれたが山崎博昭はなれなかった。

 二つ目、戦後民主主義をどう見るか。
 「1968」といえば小熊英二の大著がある。高価なので読んでいないが、二人とも小熊史観に異議を唱える。文献主義によって事実を整理しただけで当事者の声、現場感覚からはかけ離れているという。例えば全共闘とべ平連は対立的存在として書かれているが、両者は共闘関係にあったとする(そうだろう)。
 こうした錯誤はなぜ起きたか。60年安保はブントを含めて戦後民主主義の枠内での運動で(吉本隆明がこのことを批判して「擬制の終焉」を書いた)、延長線上に「1968」や全共闘運動を置くと進歩派対暴力学生という構図になる。小熊史観もこうした限界内にあるというのが笠井、絓の見方である。
 そのことは、新左翼が「世界革命戦争」を主張した背景にもかかわる。日本は無条件降伏によってヤルタ・ポツダム体制を受け入れた。戦わずして得た「平和と民主主義」が戦後体制を象徴している。ヨーロッパ各国では、結果はともかく市民がファシズムと軍事的に対決したが、日本の市民はファシズムとも連合軍とも戦わなかった。戦後民主主義に日和見体質を見た新左翼が旧左翼に対抗するため「戦争も辞さず」と叫ばざるを得なかったと、笠井は言う。新左翼が戦後体制を虚妄(吉本の言葉では「擬制」)と呼んだ背景である。

 三つ目、ポスト「1968」が胡散霧消したのはなぜか。
 世界に比べてもその度合いは激しい。そこで常にあげられるのが陰惨な内ゲバと連合赤軍事件である。内ゲバが大衆を闘争から離反させた、とする見方には笠井、?とも同意している。原因にレーニン主義=ボルシェビズムの前衛党主義があるという。前衛で指導する党は一つでなければならない。その結果、他党派は必然的に淘汰される。この究極が内ゲバだったという。
 連合赤軍事件については笠井、絓の見方は少し違っている。笠井は「人民なき人民戦争」と、戦略論として否定するが、絓は「ピンとこなかった」という。「革命戦争」を主張した一派の幹部と党派に距離を置いたノンセクトラジカルの違いであろうか。
 ポスト「1968」の果実は―と問う前に、今の大学構内ではビラさえ撒けないという話には慄然とさせられる。

 「1968」を語るとき、重要なのは「いま」とのかかわりだと思う。「以後」と「これから」という章立てでそのことにも言及しているのだが、見るべきものはなかった。親ブントからポストモダンに転じ「湾岸戦争に反対する文学者声明」に加わった柄谷行人は、明らかに戦後民主主義の枠に収まることを選択した(憲法9条による平和の選択)。それ以外の道はあるのか、ないのか。笠井、絓の両氏にはこの難問を突破してほしかったが…。
 とはいえ、熱い一冊である。
 集英社新書、1000円(税別)。

対論 1968 (集英社新書)


対論 1968 (集英社新書)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2022/12/16
  • メディア: 新書



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