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複数の視線で事件の波紋を追う~映画「悪なき殺人」 [映画時評]

複数の視線で事件の波紋を追う~映画「悪なき殺人」


 フランスの山あいの村で起きた殺人事件。波紋が広がるように周囲を巻き込んでいく。その過程を4人の眼を通して描いた。オムニバスのように見えた物語が微妙につながり合い、最後に全貌が現れる。精緻なシナリオ芸術を見るようだ。

 アリスの章。アリス(ロール・カラミー)は、孤独な青年ジョゼフと不倫関係にあった。夫ミシェル(ドゥニ・メノーシェ)も何か秘密を抱えているようだ。そんな折り、女性が行方不明になったと知らせが入る。雪道に乗り捨てられた車から、エヴリーヌ・デュカ(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)と身元が判明した。夫は村の別荘に住むギョームという富豪だった。
 ジョゼフの章。ジョゼフ(ダミアン・ボナール)は自宅近くに放置された死体を発見する。訪れた警官との会話でエヴリーヌと知るが、やり過ごす。なぜかわら小屋に隠すが持て余し、山中の穴に投げ入れ自身も飛び込む。
 マリオンの章。パリのレストランで働くマリオン(ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ)はエヴリーヌと同性愛の関係だった。別れを切り出したエヴリーヌを追って、マリオンは彼女の別荘がある村を訪れた。宿にしたトレーラーになぜかミシェルが訪れ、口論になる。
 アマンディーヌの章。アフリカ・コートジボアールに住むアルマン(ギィ・ロジェ・ンドラン)はSNSで女性を装い、金を巻き上げる詐欺師だった。手に入れたマリオンの動画を使いアマンディーヌを名乗ってカモを探していたところ、ミシェルが引っかかった。無心を繰り返すアルマン。路上で偶然マリオンを見つけたミシェルは、必死で居所を突き止める。それがトレーラーのシーンだった。実はマリオンと会う前に、ミシェルはエヴリーヌとマリオンのいさかいを目撃していた。マリオンに暴力を振るうエヴリーヌに憎悪を燃やしたミシェルがとった行動は…。

 ストーリーはこれで終わりではない。「ああ、そうか」という「オチ」が最後に控える。もちろんそれは言わぬが花、であろう。
 複数の視線がもつれあい、やがて1カ所で焦点を結ぶ。これは偶然か必然か、それとも不条理か。殺人はけっして悪意や憎悪から生まれるものではない、行き違いや勘違いのたまものでもある、という邦題の含意もいいが、人間は欲望の連鎖から逃れることはできない、それを動物たちだけが見ていた、という英語タイトル「ONLY THE ANIMALS」も捨てたものではない。
 2019年、フランス、ドイツ合作。ドミニク・モル監督。


悪なき殺人.jpg


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