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老いの孤独の飼いならし方~映画「おらおらでひとりいぐも」 [映画時評]

老いの孤独の飼いならし方~

映画「おらおらでひとりいぐも」

 

 小津安二郎の「晩春」だったと記憶するが、大学教授(笠智衆)と婚期を逸しかけた娘(原節子)が暮らしている。娘はなにかと父の世話を焼き、それはそれで不自由のない生活だった。しかし、これ以上迷惑をかけられないと父はウソの再婚話を持ちだし、娘に結婚を決意させる。結婚式がすみ、自宅に戻った父はがらんとした部屋で途方に暮れる。その時の背中に宿る孤独の影が印象的だった。この映画では、その後の父の心の内をうかがい知ることはできない。

 「おらおらでひとりいぐも」は75歳で突然、夫に先立たれ、途方に暮れる桃子さん(田中裕子)の年間の話である。桃子さんはまず図書館に通い、46億年の地球の歴史をノートにまとめることを心がける。その作業をする中でさまざまな自問自答が頭をめぐる。一方で、過去の楽しい出来事が空っぽの家の中でひとときのショーのように華やかに幕を開ける。夫(東出昌大)との出会い、東京オリンピックの高揚…。

 年齢からすると、桃子さんは団塊の世代のはしりに当たる。高度経済成長が始まるころ上京し、飲食店の住み込み店員になった。男性客となじみになり結婚。昭和、平成、令和の三代を生きた。

 過去への回想と孤独感との対話の中で、桃子さんはある境地にたどり着く。夫のためにではなく、自分のために生きてきた。いま大切なのは自由と自立だ、と。こうして桃子さんは、一人で生きていくことに価値を見出す。孤独感(キャラクターを濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎が演じる)を飼いならし、氷河期のマンモスを引き連れて住宅街をかっ歩する(シュールな映像だが、意図はよくわかる)。

 若いころの桃子さんは蒼井優が演じる。監督は「滝を見にいく」「モリのいる場所」の沖田修一。どちらもとても好きな作品である。「みる」ではなく「寄り添う」視線で映画を作れる人だと思う。芥川賞をとった若竹千佐子の原作は、残念ながら未読。60代で小説を書き始めたという。見習いたい。

 2020年、日本。

 

おらおらでひとりいぐも.jpg


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