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意外な味わい深さ~映画「ローマに消えた男」 [映画時評]

意外な味わい深さ~映画「ローマに消えた男」


 題名はミステリーを思わせる。しかし、違っていた。一見すると荒唐無稽な筋立て。したがって見終わった第一印象は「なんじゃ、こりゃ」だった。しかし、あらためて振り返ってみると、意外な味わい深さに驚かされる。

 イタリアの野党党首エンリコ・オリヴェーリ(トニ・セルヴィッロ)は、疲れ果てている。就任から数年、支持率は低迷し、支持者から罵声を浴びせられる。そして彼は妻のアンナ(ミケーラ・チェスコン)にも、側近のアンドレア(ヴァレリオ・マスタンドレア)にも黙ったまま、ローマから姿を消す。善後策に苦慮したアンナとアンドレアは、エンリコに双子の兄弟がいることを知り、そこにすべてを託す。エンリコとウリ二つのジョヴァンニ・エルナーニ(トニ・セルヴィッロ)は長年うつ病で、最近病院を出たばかりだった。さらに彼はエンリコとは疎遠で、性格も全く違っていた。

 だが、剣ヶ峰の替え玉作戦は見事にあたる。哲学の教授だったジョヴァンニは、ブレヒトらの言辞を引きながら大衆を魅了する名演説をし、支持率もうなぎ上りに上昇する。カリスマ的雰囲気さえ漂わせ、もはや立派な政治リーダーである。

 一方、エンリコは、パリの元恋人ダニエル(ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ)のもとに身を寄せる。ダニエルの仕事先でささやかな手伝いをし、徐々に心身の回復を見せ始める…。

 こうなると、観ている方としては、いつエンリコは元のさやに収まるのか、それとも偽物が本物にすり替わるのか、と期待する。しかし、徐々にエンリコとジョヴァンニは同化していき、最後には、党首の座にいるのはどちらなのか判別できなくなる。おそらく、この結末のあいまいさがこの作品の命であろう。結末が明確であれば、冒頭に書いたように、ただの荒唐無稽な物語である。そこが判然としないがゆえに、この作品はさまざまな寓意を持ちうる。

 原題は「VIVA LA LIBERTA」、そのまま訳せば「自由よ万歳」。当初日本で公開されたときは「自由に乾杯」というタイトルだったらしい。政治が本来的に抱える現実と理想のギャップの物語であるのかもしれない。政治とは言葉であり、扇動である、と言いたいのかもしれない。あるいは、原題そのままに理解すれば、疲れたら人生を降りよう、という意味かもしれない。万華鏡のように、見るものによって形を変える不思議な側面を持った映画である。2013年、イタリア、フランス合作。

ローマに消えた男.jpg


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