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意外な掘り出し物…だけど~映画「杉原千畝」 [映画時評]

    意外な掘り出し物…だけど~映画「杉原千畝」

 杉原を演じるのが唐沢寿明と聞いて、ちょっとなあ…と思っていた。知人から、割とよくできていると聞いて、見に行く気になった。

 北満鉄道をソ連から買い取るところ(1934年)から、戦争が終わる(45年)ころまでを、杉原の目を通して描いた。舞台はほとんど、東ヨーロッパである。ドイツ、リトアニア、ポーランド。独ソが領土的野心を燃やし、ついに第2次大戦で激突した地域である。資料によれば、1400万人がかの地で命を落としたという。それも、ほとんどが戦闘員としてではなく。

 杉原が出した「命のビザ」で救われたのは、約6000人といわれる。対象となったユダヤ人たちは当時、独ソ双方から危険な立場に追い込まれていた。そうした時代背景を、かなり丹念に描きこんでいるのは確かだ。では監督はだれだろう、と確認すると、チェリン・グラック。米国人と日系アメリカ人の間に、和歌山で生まれたという。この監督の経歴、作品はよく知らないが、ハリウッドで映画製作の経験を積んだらしい。映画で、杉原とともに対ソ諜報活動を行っていたイリーナを演じるのはアグニェシュカ・グロホフスカ。彼女はA・ワイダ監督の「ワレサ連帯の男」で主役を演じた、ポーランドで人気の女優である。杉原の右腕ペシュはポーランドの演技派ボリス・シッツが演じた。こうしてみると、この映画は日本、ポーランド、ハリウッドの合作ともいえる。

 こうした、作品が出来上がるまでの経緯をみれば、三つのグループを率いる監督たちは大変だったろうと推測される。

 気になるのは、スポンサーが日本テレビネットワークで、読売新聞もかんでいることだ。そのせいだろう、映画の中で出てくる新聞は読売だけだった。そこで、なぜ読売なのかをついつい考えてしまう。


① 杉原は戦時中、対ソ諜報活動を行っており、ソ連から「ペルソナ・ノングラ-タ」とされた人物である。つまり、反ソ的人物である。

② ユダヤ人救出に尽くした杉原はもちろん、米国のユダヤ系の人々、さらにイスラエルからは高く評価されている。つまり「親米的」人物である。

③ 杉原は、世界史的に見れば高い評価を得ている。最近とみに顕著な「日本ぼめ」の風潮に、見事にあてはまる。「ホロコースト」という世界史的な悪夢に敢然と立ち向かった、誇り高き日本人というイメージを確立できる。


 こうした点で、保守系メディアも飛びついたのではないか。ちなみに、安倍晋三首相も、この映画は見たそうだ。

 もう一つ、最後になったがこれが最も気になる点。イリーナの夫は「命のビザ」で米国に渡るが、実は科学者で研究に没頭し、その結果は戦争に利用されたという。「だけど、そのことが結果的に多くの命を救った」とイリーナに言わせていることだ。これは、原爆開発に多くのユダヤ人研究者がかかわっていたことを考えると、原爆投下正当化論につながる。必ずしも必要ではなかった、こうしたセリフを盛り込んだ意図は何か。日本人によって救われたユダヤ人が、結果的に日本人虐殺に手を貸した、と批判されることに対して予防線を張った、ということか。


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