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「老い」と「愛」と、どちらが重い~映画「愛、アムール」 [映画時評]

「老い」と「愛」と、どちらが重い~映画「愛、アムール」


 ミヒャエル・ハネケ監督である。この人の「視線」には、引かれるものがある。前作「白いリボン」はドイツの美しい田園風景の中で、次々起こる不穏な事件を描きながら第一次大戦前の得体のしれぬ不安感を浮き彫りにした。今度は一転、パリの瀟洒なアパルトマンで、世間的には成功者と見られるであろう音楽家夫婦の、老いと病を契機とした日常の崩壊とその中の「愛」を描く。

 おそらく、この映画はジャン・リュイ・トランティニアンを抜きにしては成り立たないであろう。そうか、「男と女」の知的な2枚目も、もう80歳を超えたのか。そしてアラン・レネ「二十四時間の情事」のエマニュエル・リバ。周到なキャスティングである。

 ストーリーは極めて単純である。冒頭に書いたことでほとんど言いつくしてしまっている。それ以上書けば、観る者の楽しみを奪うことになりかねない。ただ、そこでの記述で「老いと病」(世間一般の表現で言えば「老老介護」)による生活の崩壊と「老境での愛のありよう」を、単純に「と」という接続詞で結んだが、本来これは均等でなく、観る者の哲学、思想、人生観、死生観…によってどちらかに傾斜するにちがいない問題である。そこは観たものが判断すればよいのだが、この感覚は「白いリボン」を観た後で味わった感覚とよく似ている。

 蛇足を二つ。この映画はキャストもさりながら、パリのアパート、当事者が人生の成功者というシチュエーションであればこそ直視できる。もう一つは、詩的ともいえる終わり方が実にすばらしい。


 「愛、アムール」1.jpg


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