ルービックキューブのような~映画「クラウドアトラス」 [映画時評]
ルービックキューブのような~映画「クラウドアトラス」
時空を超えた六つのストーリーが同時並行で進む。それぞれのキーパーソンには身体のどこかに彗星型のあざがある。1人の俳優が複数の役を演じ分ける。何かを共通項として整理し直すと、ストーリーの底にある寓意が見分けられる。
…と思うのだが、なかなかそこまでたどり着けない。輪廻転生、魂の遍歴…と言ったものが大宇宙を漂流するストーリーと絡み合って表現されているらしいことは分かるのだが。
1849年の、奴隷売買と太平洋航海記。1936年の、幻の交響曲「クラウドアトラス」誕生。1973年の、あるジャーナリストと物理学者の出会い。2012年の、スキャンダラスなベストセラー作家と出版元のトラブル。2144年の、ネオソウルで繰り広げられるクローン人間の反乱。そして、全編の基調となる「地球崩壊後」の物語。
この物語をどう並べ替えれば一つの立体が完成するか。それはちょうど6面体の色をそろえるルービックキューブのような趣がある。
しかしなぜか、全てのストーリーにはある種の既視感が漂う。特にその感が強いのは、ネオソウルでの、ソンミ451の反乱であろう。どこかで見たような…。それとともに、この全体主義の国家観はなんだろう。この映画の製作国は米独と香港、シンガポール。その割には、欧米的なアジア観が前面に出すぎているような気もする。トム・ハンクスが語り手を演じる「地球崩壊後」も、これまでさんざん描かれてきた世界である。
つまり、一本一本のストーリーは新しいものではないが、6本集めると別の物語になる、といった作者の意図がすける。その半面、ある新聞にある評者が書いていたが、ストーリー構成に「余白がない」印象もぬぐいきれない。観る者が感情移入したり、解釈を施したりする余地があまりにも少ないのである。作者の意図だけが、洪水のように私たちの頭の中に押し寄せるのである。
この複雑な映画、あなたはどう観ました?
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