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事実は小説よりも奇ならず~濫読日記 [濫読日記]

事実は小説よりも奇ならず~濫読日記

「古代ローマ人の24時間 よみがえる帝都ローマの民衆生活」(アルベルト・アンジェラ著)

 古代ローマ人の24時間_001のコピー.jpg  「古代ローマ人の24時間」は河出書房新社刊。2400円。初版第1刷は2010730日。著者のアルベルト・アンジェラは1962年、パリ生まれのイタリア人。アフリカ、アジアで発掘調査ののち、サイエンス番組の監修、キャスターを担当。科学ライターとしても活躍。











 著者はテレビキャスターとしての経験も持つという。そこでこうした企画が生まれたのかもしれない。2000年前のローマ帝国のメーンストリートを再現する。当時の市民の服装はどうだったか、食べ物は、奴隷市場の雰囲気は…。映画を見るような展開である。

 最も興味を引き付けるのは、コロッセウムで繰り広げられる剣闘士たちの闘いぶりであろう。古文書をひもときながら著者は、事細かに紹介して見せる。敗れた剣闘士は親指を上に向けて命ごいのジェスチャーをする。審判は主催者に判断を仰ぐ。「死」の決定が下れば、敗れた剣闘士は最期の時を迎える。

 しかし、実際には命を落とす剣闘士は多くはなかった、と著者は明かす。一人の剣闘士を育てるには月日が必要で、また人気のある剣闘士を簡単に死なせるわけにいかなかったという事情もあるようだ。

 時は紀元115年。ローマ帝国が絶頂のころ、トラヤヌス帝の時代。版図は約1万㌔に及んだという。もちろん、このころの帝国を支えたのは「すべての道はローマに通ず」と言われた、すぐれた道路事情だった。そしてすべての物資が集積するローマは、一説には人口200万人。驚くべきことに、今のローマとさして変わらない。しかし、その人口構成をみるとさながら国際都市の感がある。地中海(ヨーロッパ系)の市民はむしろ少ない。中近東、アジア、アフリカ系が多かったようだ。その多くは奴隷として連れてこられた人々だ。いまだに奴隷のままでいるか、解放されて自由民となっているか。

 治安はとても悪かったようだ。メーンストリートから一歩、小路に入ると強盗にあったらしい。死体がそのまま転がっているシーンも描写されている。そして通りの不潔さ加減も尋常ではなかったらしい。異民族が絶え間なく流入し、往来はごった返している。このあたりの感じは、現代の都市に似ているかもしれない。水洗式ともいえるトイレ事情も面白い。

 こうした都市の奔放なエネルギーを統制するために、犯罪に対しては峻烈な態度を取らなければならなかったのかもしれない。公衆の面前で行われる野獣に食い殺される刑などは、身の毛のよだつ思いだ。しかし考えてみれば中世の魔女狩りあたりまでは随分と過酷な刑が横行した。「ギロチン」などはむしろ人道的な刑であったとさえ思える。日本の場合を考えても同じだろう。とすると、歴史上ローマが特別過酷だったかは、一概に言えないかもしれない。

 ローマ帝国と言えば、快楽にふけり退廃への道を突き進むイメージがある。しかし、著者が明かす市民の生活はとても質素である。相手が階級的に下であれば(つまり相手が奴隷であれば)、不倫も許されたというが性は思ったほど自由ではない。食も予想したよりずっと質素だ(フラミンゴの肉はどんな味だろう…)。帝国末期はどうだったか、とは思うが、著者も明確に「ローマ人が乱交やどんちゃん騒ぎをしながら一日の大半を食卓で過ごしていたという認識は事実と異なる」と書いている。

 ローマ帝国はその隆盛のゆえに栄華と退廃のイメージで語られることが多いが、こうしてみると意外に普通の日常である。むしろそのことに気づかせてくれる著書だと思われる。

 「事実は小説よりも奇ならず」なのである。歴史書とは「現代と過去との永遠の対話」(E・H・カー)だとすれば、この書はむしろ「物語」に属すると思われる。
 

古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活

古代ローマ人の24時間---よみがえる帝都ローマの民衆生活

  • 作者: アルベルト・アンジェラ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2010/07/21
  • メディア: 単行本



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オカジュン765

こんばんわ。初めまして。広島ピアノさんのブログより訪問させていただきました。戦争風化の現実を少しでも食い止めるよう頑張って下さい。
by オカジュン765 (2010-12-16 20:55) 

asa

≫オカジュン765さん
ありがとうございます。大したことはできませんが…
by asa (2010-12-23 01:50) 

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