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「事実」との距離感が気になる~濫読日記 [濫読日記]

 「事実」との距離感が気になる~濫読日記

「『普天間』交渉秘録」守屋武昌著

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 ★★☆☆☆


 「『普天間』交渉秘録」は新潮社刊。
1600円(税別)。初版第1刷は2010年7月10日。

 著者の守屋武昌は1971年に防衛庁入庁。1996年、内閣審議官として普天間問題にかかわる。2003年から2007年まで防衛事務次官。
 












 防衛庁の事務次官を4年にわたって務めた守屋武昌は
2007年に退官した。その後、軍需専門商社から便宜供与を受けたとして逮捕された。その彼が防衛庁在職中にかかわった、普天間をめぐる国内外の調整の裏側を明らかにした。
 ひろく言われているように沖縄の基地問題、なかんずく「普天間」は「パンドラの箱」だった。さしたる見通しもなく「箱」を開けてしまった鳩山政権は退陣を余儀なくされた。橋本政権のもとで1996年に合意にこぎつけた「普天間返還」とその後の移設交渉は日米間と政府・沖縄間で微妙なバランスの上に成り立った連立方程式の「解」であったことが、この鳩山政権の迷走一つ見てもよく分かる。ではパンドラの箱に封じ込めた交渉経過とはいかなるものだったか。
 当事者によるこうした「秘録」の類は、いつもは読まないことにしている。記録された事実関係に「バイアス」がかかり、実像がゆがむのではないかという懸念がぬぐい去れないからだ。そうした懸念がありながらなお読むことにしたのは、いま沖縄基地交渉の裏側を書くこと(そしてそれを知ること)の意味と、当事者として守屋武昌はこれ以上ないキーパーソンだという、二つのことを重視してのことである。
 そのうえで、この書をどう評価すべきか。答えは否定的にならざるを得ない。当事者であるだけに細部には捨てがたいリアリティーがひそむ。しかし一方で、書かれた事実と筆者との「距離感のなさ」に危うさを感じてしまうのだ。
 名護キャンプ・シュワブ沖合の滑走路が政府と沖縄県、名護市との交渉の中でX字案からL字案、V字案へと移っていく過程の記述はさすがにち密・詳細といっていい。しかしその交渉は、守屋によると思わぬ方向へと向かう。

 ――(名護市の)末松助役は(略)横長のテーブルに大きな図面を広げた。これも昨夜の打ち合わせでは、まったく知らされていないパフォーマンスだった。深夜に防衛省で会った際にも、当の末松助役本人が何も言っていなかった。私は末松助役を怒りで睨みつけた。

 守屋がすでに合意したと思っていたV字案に、沖縄県知事、名護市長が修正を求めたシーンである。助役は、V字案のバリエーションであり合意の変更ではないと念を押す。これを守屋は怒りを込めて睨みつける。会議の後、末松助役は守屋に近づき「よろしく」と握手を求める。一連の描写に、沖縄が何をどう考えてこのような行動に出たかの説明はない。そしてこの章のタイトルは「不実なのは誰なのか」である。
 守屋の「体験談」としては、これでいいかもしれない。しかし「交渉の記録」としては、どうだろうか。
 久間防衛相が2007年、原爆投下について「しょうがないな」発言をして辞任に追い込まれた。守屋は「久間大臣は辞めたかったのでは?」と書く。辞める理由を探すため「原爆投下しょうがない」発言をしたというのだ。その理由として健康問題をにおわせているが、はっきりしない。そんなことがあるだろうか。健康問題ならそう言えばいいし、辞める糸口として問題発言をしたというのなら、内閣への影響が大きすぎる。当時、佐田行革相、松岡農水相に続く3人目の辞任で、久間の後には赤城農水相が辞めている。そして発言の中身は日本政府にとって最もセンシティブともいえる「核」問題だ。ここにも守屋の「距離感のなさ」を感じる。
 そんな中で面白かったのは小池百合子防衛相とのやり取りだ。小池の人事によって守屋は事務次官のポストを去る。いうなれば、これは1対1の「密室劇」である。1対1の密談が外に出れば、読むべき価値がある。例えば、小池が「島袋ちゃんなのよ。例によっていろいろ言うのよ、あの人は」と漏らすあたり。その後で「島袋・名護市長らの要請に応じて守屋次官は切られた」との情報が流れたとされる記述を読めばなおさら捨てがたい。しかし「『普天間』交渉秘録」と銘打ったこの書が、政治スキャンダルともいえる部分で価値を見出されるとすれば、なんとも皮肉なことではある。

「普天間」交渉秘録

「普天間」交渉秘録

  • 作者: 守屋 武昌
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/07/09
  • メディア: 単行本


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