SSブログ

小品だがずしりと来る~映画「トロッコ」 [映画時評]

 小品だがずしりと来る~映画「トロッコ」

 昔読んだ芥川龍之介の「トロッコ」は、トロッコに乗ってみたいという誘惑に勝てなかった少年が、予期せず大人の社会を垣間見るという掌編であったと記憶する。みずみずしい感性に彩られた少年の体験記とでもいうべきこの作品をコアの部分に置き、日本と台湾、戦争の傷跡、母と子といったテーマをちりばめた。なにより森の原風景と言っていい台湾の自然が素晴らしい。そして尾野真千子の、さりげなくみえて濃密な演技が光る。

トロッコ1.jpg 

 ある夏の日、台湾人の夫を失った日本人女性(尾野真千子)が2人の子を連れ、遺灰を持って夫の実家を訪れる。そこではとても歓待される。しかし夫に急死された若い母は途方に暮れている。迎えてくれた優しい祖父(ホン・リウ)は、日本兵として戦いながら恩給をもらえないことへの屈折を今も心にひそめている。2人の子は台湾の子供たちと容易になじめない。

 そんな2人の子は森の中に、今も動くトロッコを見つける。近くに住む青年と、森の中をどこまでもトロッコを押していく。夢かと思える幻想的で美しいシーン。しかし帰らぬ2人に母は心を乱す。夕暮れて泣きながら帰ってきた子供たちを、母はどう迎えるか。
 母は2人の子を連れて台湾に住む決意を話す。しかし祖父は「もう十分だから日本に帰りなさい」とさとす。
 戦争責任を追及するばかりではない、台湾の人たちの複雑な日本への思い。挫折感を心に宿してなお生きていこうとする母。いくつもの壁を乗り越えるすべは、ただそれぞれの誠実さだけではないかと思えるストーリーの展開は、監督・脚本を担当した川口浩史の優しい視線を感じさせる。
 声高ではないが、心のどこかにずしりと来る映画である。

トロッコ2.jpg 

 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1