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現代米国社会の不条理を描く~映画「フローズン・リバー」 [映画時評]

現代米国社会の不条理を描く~映画「フローズン・リバー」 

 米国ニューヨーク州の最北部、カナダとの国境。トレーラーハウスに住む2児の母レイ(メリッサ・レオ)は亭主にカネを持ち逃げされ、生活苦にあえぐ。スーパーでの仕事も芳しくない。凍てつくセントローレンス川の河岸にある保留地では先住民の女性ライラ(ミスティ・アップハム)が密入国者の手引きをしていた。2人の母親が手を組み、車でアジア人たちを凍った川面の対岸へと運ぶ。

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 家庭を守らねばならないシングルマザーが犯罪の深みへと落ちていく物語である。舞台となるセントローレンス川の氷原は朝に夕に、あくまでも美しい。そして2人の女性の心理描写の濃密で繊細なこと。地味だが一級の映画であることは間違いない。

 「なんと興ざめな」というそしりをあらかじめ承知で言えば、冬の氷原の厳しさは何を物語るのだろう。「板子一枚下は地獄」という世間の荒波の常なのか。現代米国社会の荒涼とした風景なのか。北米先住民の超えられぬ米国社会との溝なのか。おそらくは、そのすべてであろう。ただ、そうしてみたときに密入国者である中国人、パキスタン人たちの存在感、肉体性のなさはどうしたものだろう。彼らはどのような事情を抱えて米国へ入国することを決めたのか、最後に入国を果たせなかった中国人は何を思うのか。先住民モホーク族の描写との落差が気になってくる。その「肉体」と「感性」の一端でも見えればこの映画はもっと肉厚でありえただろう。

 氷が割れ、沈んでいく車から逃げるレイたちの恐怖感は、暗い底なしの生活を強いられる現代米国人たちの不条理感につながっていることは間違いない。クエンティン・タランティーノが絶賛したというのもうなずける。2008年米国映画。

 フローズン・リバー1.jpg


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