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三文芝居を見るようだ~広島市議会の五輪予算審議 [社会時評]

三文芝居を見るようだ~広島市議会の五輪予算審議 

 岩見隆夫の近著「総理の娘」を読んでいて興味深いシーンに出会った。60年安保の渦中、樺美智子の死に際して当時の首相、岸信介は深夜、一人自室でトランプ占いのカードをめくっていたという。岸の娘であり安倍晋三元首相の母でもある洋子の証言である。権力者の孤独がひしひしと伝わる。

 岸は新安保条約の成立を見届けたのち退陣した。会見では「声なき声」が支持していると言い残して政治の表舞台を去った。「声なき声」とは何か。この問題を政治システムと絡めて考えると実は難しい。安保改定をめぐって数万人規模のデモ隊が国会を囲み、過激な行動の末に死者まで出した。直接的な意思表示である。一方でわれわれは民主主義の手続きにのっとって(国会)議員を選び、その審議によって政治の枠組みや方向を決めていく。この二つがかい離した時どうするか。直接民主主義と間接民主主義の折り合いをどうつけるか、といってもいい。もっと分かりやすくいえば、ほとんどの国会議員は当時、個別の地域的な課題について負託は受けたかもしれないが、安保改定の賛否を直接負託されて選ばれてはいないはずだ。岸が言う「声なき声」も、このあたりに詐術のにおいがしないでもない。

 すべての課題を直接民主主義に任せようと言っているわけではない。もちろん、間接民主主義の利点はある。政策の一貫性とバランス、迅速性。直接民主主義は大衆の意思をくみ取りやすいが、ときとして方向を間違えかねない。「衆愚」と呼ばれる政治に陥る危険もある。この問題を考える糸口として「説明責任」という言葉がある。次善の策として、間接民主主義のもとで「声なき声」への説明責任を誠実に果たしていけば、間違いは減るのではないか。

これに関連して考えさせられた事態が最近の広島市議会で起きた。市の当初予算案に盛り込まれた2020年五輪の招致検討費をめぐる審議である。まずは新聞報道をもとに、簡単に経緯を記す。

 

 広島市議会(定数55)の自民党系2会派が3月23日、当初予算案から五輪招致検討費を全額削除することなどを盛り込んだ修正案を提出。25日の予算特別委で修正案を賛成多数で可決した。議長と委員長を除く53人のうち自民党系2会派18人のうち17人が賛成(1人は退席)、公明党(8人)と他会派の一部が同調し賛成は28人だった。新聞には「広島五輪 実現困難」「広島五輪 市議会『ノー』」などの見出しが躍った。翌26日の本会議でも修正案が可決された。

 これに対して秋葉忠利市長は事実上の拒否権である「再議」を要求、31日の臨時会を招集した。この場合、3分の2が可決ラインとなる。先に可決された修正案は3分の2に届かず廃案。続いて自民党系の1会派が出した、招致検討費を市の原案より100万円減額する案に公明が同調、賛成31で可決した(この場合は過半数で成立する)。他の自民会派が出した招致検討費の大半を削除する案は否決された。

 

 市議会は当初、五輪招致に「ノー」と意思表示しておきながら次には事実上「イエス」としたのだ。特に公明は五輪招致「反対」から「賛成」に回り、新聞報道によれば「もともと五輪構想を全否定する気はなかった」という。これは分からない。あえて議員心理を忖度して言えばこういうことだろうか。

 

 もともと秋葉市長は市民にも市議会にもほとんど説明せず、五輪招致の話を進めている。昨年の10月に長崎との共催を打ち出した時にも議会には事前の説明は何もなかった。独断専行がすぎる。ここらでガツンと「ノー」と言っておこう。しかし、再議を求められると予算不成立の恐れもある。そうなれば議会に対する批判が出かねない。そこそこで矛を収めておこう-。

 

 もしそうなら、ほとんどこれは市長と市議会の「メンツ」の問題ではないか。市民にとっての最善の策を追求するという視点はない。一連の審議の中ではもうひとつ、意図不明な決定がなされている。新広島市民球場ができたことに関連して旧広島市民球場を廃止する条例案が否決された一方、球場解体費の予算は認められた。球場を「廃止してはならない」と言い、一方では解体費は認める。これも分からない。もし、政治屋たちがお互いのメンツを立てあった末の妥協の産物だとすれば、これはもう三文芝居を見ているようで吐き気がする。その結果、説明責任を果たされることのない「声なき声」すなわち「サイレントマジョリティー」は立つ瀬がない。

 議会制民主主義が成り立つ最低限の前提。それは説明責任を果たすこと。理解可能な論理の一貫性を求めることに責任を負うべきではないか。そうでなければ政治の横暴、ひいては独裁が横行する。すでにそれが始まっているのかもしれない。


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