SSブログ

今こそ非核国家を目指す覚悟を~確認された日米核密約 [社会時評]

 

今こそ非核国家を目指す覚悟を~確認された日米核密約 

  著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で若泉敬氏が自死と引き換えに明らかにした1972年沖縄返還時の佐藤・ニクソン核密約がついに公式に確認された。息子の信二氏が、自宅で保存されていた署名入り文書を公開した。
 文書は若泉氏が書いている通り覚書ではなく首脳会談議事録の体裁をとり、フルネームの署名が入っている。当初は頭文字だけの予定だったがニクソン大統領がフルネームで署名したため佐藤首相も従ったという若泉氏の記述通りだ。この文書が「保留」と佐藤氏の自筆らしい表書きのある封筒に入れられて保存されていたという。状態から見て、歴代首相へと引き継がれた形跡はない。佐藤氏が腹の内へ秘めて、そのまま墓場まで持ち込もうとしたものなのか。
 しかし、そう言ってしまうには、あまりに内容が重い。文書では米側が①有事の際には返還後の沖縄に核兵器を持ち込む権利を有する②その際は核持ち込みを安保条約の事前協議の対象とする③核貯蔵施設がある嘉手納、那覇、辺野古をいつでも使用可能な状態にする―とし、日本側が、事前協議が行われれば遅滞なくその要件を満たす―と答えている。つまり、非核三原則にのっとれば事前協議の際、日本は核持ち込み「NO」と答えるべきなのだが、有事の際は米の立場を理解し「YES」と答えますよ、と言っているのだ。
 密約があった1960年代にはベトナム戦争があり、沖縄から北爆のためB52戦略爆撃機が発進した。核搭載については当時の国会でも野党から追及があったが、政府は「米から事前協議の要請はない」「したがって核は持ち込まれてはいない」と一貫して突っぱねる答弁をしていたと記憶する。答弁が事実に即していたかどうか、今となってはやぶの中だ。ただ、今回明らかになった密約によって、沖縄の米軍基地が返還後も核兵器持ち込みで「スタンバイ」していたことは明らかである。
 このような密約を、佐藤氏は一人で抱え込んでいたのか。1972年当時の世論を考えると「核抜き本土並み」でなければ沖縄の返還は受け入れられなかっただろう。その一方で北東アジアをにらむ米の世界戦略がある。話がわき道にそれるが、いまD・ハルバースタムの「ザ・コールデスト・ウィンター 朝鮮戦争」を読んでいるところだ。ハルバースタムはNYタイムズ特派員としてベトナム戦争を報道して以来、さまざまな戦争にかかわる米政権の愚行を描き続けているが、この「朝鮮戦争」でも同じ視点を崩していない。同時に著作ではロシア(ソ連)、中国、日本に挟まれた朝鮮半島のデリケートな地政学的意味を米がどう見ていたかも詳細に明らかにしている【注①】。この、朝鮮半島の不安定さは今日に至るまで少しも変わっていないのだ。
 つまり、日本に対して匕首のように突き付けられた朝鮮半島【注②】に核兵器を持つ敵対国家が存在するという事実が沖縄の基地の戦略的重要性を増している、ということは否定のしようがない。こうした情勢を考えると、非核三原則にある「持ち込ませず」は、実は、相当の覚悟がいる選択肢なのだ。おそらくここに、佐藤氏が抱えたジレンマの根源がある。
 内田樹氏は「街場のアメリカ論」の中で戦後日本を鉄人28号になぞらえた。無垢な少年によって操縦されるモンスター。言うまでもなく少年とは日本の戦後民主主義であり、モンスターとは在日米軍、もしくは「核の傘」である。ここで「モンスター」あるいは「傘」は、意思を持たない「道具」として見立てられている。では道具を利用するのは誰なのか。ここで一つのことに気づく。「核の傘」にも「非核三原則」にも「主語」がないのだ。意思を持つ主体をあえて隠すことで、佐藤氏は非核三原則と核の傘の矛盾を覆い隠し、さらには核の傘=沖縄の米軍基地を巧妙に利用することを思いついたのだろうか。
 核密約がこうして歴史的に明白な事実になった以上、日本は従前のように非核三原則と核の傘の両方を手にすることはできない。意思を持つ主体として、どちらかを捨てなければならないのだ。では分岐点に立った時、「非核二原則」へと舵を切る選択は本当にありうるのだろうか。今の日本は普天間問題にとどまらず日米安保、日米同盟、北東アジア非核地帯化構想、これらを包括的に捉えた思想が問われているといってもいい。

 【注①】朝鮮半島の利権をめぐり日露戦争が始まった経緯は加藤陽子「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」で整然と記述されている。
 【注②】D・ハルバースタム「朝鮮戦争」にも同様の記述がある。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0