大人の議論はないのか～ヒロシマ五輪騒動 [社会時評]
大人の議論はないのか～ヒロシマ五輪騒動 |
前にも書いたとおり、いったい核兵器廃絶と五輪開催はどこでどう結び付くのだろうか。ＪＯＣによると、広島・長崎共同開催案についてＩＯＣ幹部は「憲章の変更はできない」と答えたようだ。あたりまえだろう。日本の地方都市が突然、２市で五輪を開きたいと言い出し、急きょ五輪憲章を変える。なんでそんな流れになるのか。「被爆地」だの「核兵器廃絶」だの「平和のため」と言えばどんなルールも変更できる、と思いだしたら、これはもう大人の議論ではない。
五輪とはいまや、商業主義とナショナリズムの国際運動会だというのは、言わずもがなの事実である。まあ、それはそれで見て楽しければいいじゃないの、という意見までも否定する気はない。だが、なんでそんなものに「平和のため」などとくっつけて、地方の小都市が背伸びしてまで開催しなければならないのか。こんな理屈は誰もわからないだろう。その結果の膨大な財政赤字はだれが責任を取るのか。
秋葉市長は2007年から３期目に入った。2011年の市長選に勝てば４期目に入る。まあ、常識的には五輪開催時の市長ではない。いま大風呂敷を広げてまかり間違って五輪開催となって、莫大な借金だけ残されたのでは大迷惑だ。この市長選日程を見れば分かるが、市長は今、３期目の後半に入ったところ。五輪でアドバルーンを上げて次の市長選の浮揚力にしようという魂胆は見え見えだ。ということは市長自身、広島で五輪が開かれるとは思ってないだろうし、万が一五輪が広島に来たりしたら真っ青になるはずだ。「どうせ実現なんかしないんだから」と腹の底でタカをくくっているに違いない。そんな思惑で市民や被爆者、周辺の多くの首長を巻き込むとは、罪が深いとしか言いようがない（でも、次の市長選日程を考えると秋葉市長は来年いっぱいこれで引っ張るんでしょうね）。
ところで、このニュースを伝えたメディアのいい加減さ、生ぬるさはどうしたことだろう。そんな中で朝日新聞が、「五輪はまずスポーツの祭典であり、核廃絶には直結しない」とびしっと書いているのが光る。といってもこの解説記事は地方版の２番手扱い。どうしてもっと前面に出さないのだ。この記事の末尾は「両市は『市民や被爆者が今、本当に五輪開催を望んでいるのか』という原点に戻り、ゼロから議論し直すべきではないか」と締めくくっている。別段朝日の回しものでも何でもないが加戸靖史記者、がんばってほしい。
この対極を行くのが例によって読売新聞。社会面の見出しは「被爆地五輪 願い分断」だって。どこにそんな事実が転がっているの？ 広島市民があげて五輪開催を熱望しているなどとは、聞いたことがない。さらに大阪府の橋下知事に「普通の人間だったら感じることを、ＪＯＣは感じないんですか」としゃべらせているが、知事は広島市民の声を聞いたことがあるのだろうか。普通の人間なら「広島で五輪？ なんで？」と思うだろう。
毎日新聞は各面を通じて賛否両論。腰が引けた報道ぶり。地元地方紙は、というと、これがどういうスタンスか全く不明。市長らは世論の後押しでＩＯＣの従来方針を覆すつもりだったが、時間がなくてＩＯＣを動かすことができなかった―と解説。で一体何が言いたいのだろう。そもそも核廃絶と五輪が結びつくのか、広島の財政的体力で五輪は開くべきなのか、といった正論を論じなければ話にならんだろう。
でもまあ、そんなことを言う前に、五輪を選挙活動に使って市民を巻き込む秋葉のやり口に一言も言及しない新聞ってなんでしょうかね。
2009-12-26 17:28
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２２日付の地元紙で、フリーアナウンサーの中司弘子氏がこう述べています。「広島市の２０２０年夏季五輪誘致の検討は、唐突に出てきた印象がある。この時期になぜ、が一番の疑問。広島が世界に発信できる意義は分かるが、複数都市開催が認められるのかなどの大きな課題が分かったうえで名乗りを上げた。その背景に何があるのかを知りたい。このニュースに注目していく」。
ぜひ地元紙に市民アンケートをしてもらいたいですね。
by tomo (2009-12-27 17:49)
そうです。「なぜ今」が一番知りたいところです。複数都市開催が認められないことも、百も承知で市長はぶち上げたはず。秋以降、いなくなることが分かっていた藤田知事にも、事前に一言も言わなかったのも、いやらしいですね。私も背景を知りたいと思います。アンケートもしてもいいのですが、設問の仕方で結果はずいぶん違うでしょう。
by asa (2009-12-28 07:25)