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矜持に生きる男~映画「碁盤斬り」 [映画時評]

矜持に生きる男~映画「碁盤斬り」

 

 大人たちがどんどん優しく、物分かりよくなっている。なぜか。原因の一つに「〇〇ハラスメント」なる警句への過剰反応があるように思える。結果、世の中は無色透明、ホワイト化した。一方で仕事に矜持や誇りを持って取り組もうという輩は口を閉ざし、若者にサービス業並みの対応をする利口な輩が大きな顔をする。

 こうした風潮と真逆の男が登場する「碁盤斬り」。武威の誉れ高い彦根藩士・柳田格之進(草彅剛)は、藩主の掛け軸がなくなった事件の罪を着せられ追われた。妻は入水自殺を遂げた。貧乏長屋に娘の絹(清原果耶)と暮らす。

 唯一の趣味は碁である。打ち筋は性格通り、正攻法でけれんみがない。糊口をしのぐため篆刻彫りで得たわずかな金を、大店の主人萬屋源兵衛(國村隼)との賭け碁につぎ込んだ。最終局面で勝負を投げだした格之進を、源兵衛は不審がる。清廉潔白な性格からの行動と理解した源兵衛は、碁の指南役を依頼する。

 月見の夜、源兵衛は店で格之進と碁を打った。興に乗ったころ、50両がなくなる事件が起きた。大番頭は格之進を疑い、手代の弥吉(中川大志)を長屋に向かわせた。怒りが収まらぬ格之進は腹を切ると言い、絹は父の命を救うため吉原に身を売る決意をする。

 藩からの使いが、掛け軸の一件の真相を告げた。柴田兵庫(斎藤工)の仕業で、格之進の妻は兵庫に脅されて身を任せ、自死したという。出奔した兵庫を追って格之進は旅に出た。吉原に身を沈めた絹は、年が明ければ店に出なければならない。それまでに兵庫は見つかるのか。

 

 再会した格之進と兵庫は碁で決着を付けようとするが、結局は剣を交える。「碁」という盤上のゲームが命のやり取りの道具になり、碁盤というツールが源兵衛と弥吉の命の盾になる、というストーリーは魅力的だ。悪役として描かれた兵庫が、四角四面の格之進に藩内の者は息が詰まる思いだった、妻はそうした怨嗟の声を苦に死んだのだ、と語るあたり、勧善懲悪にとどまらない奥行きを見せる。世捨て人風の素浪人から復讐の鬼と化す草彅の振幅の大きい演技も見どころ。

 ラスト、絹と弥吉の婚礼の日、格之進は旅に出る。兵庫の言葉を胸に、自らの矜持がそうさせたのであろう。余韻があっていい終わりだ。

 2024年、監督は「孤狼の血」「凶悪」の白石和彌。初の時代劇とは思わせない安定感。

碁盤斬り.jpg



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