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魅力的な3点セットだが~映画「リボルバー・リリー」 [映画時評]


魅力的な3点セットだが~映画「リボルバー・リリー」


 関東大震災の翌1924年の秋。秩父で謎の一家惨殺事件が起きる。ただ一人、少年が生き残った。彼は、東京・玉野井でカフェを営む小曽根百合(綾瀬はるか)を頼れ、と父から聞いていた。

 この時代、日本は帝国への道を歩んだ。日清、日露、第一次大戦が成功体験としてあり、191011年の大逆事件と朝鮮併合は、内外にわたる帝国化の動きだった。震災では、そのあおりとして朝鮮人、社会主義者・無政府主義者の虐殺事件が起きた。ほぼ同時代を描いた「菊とギロチン」(2018年、瀬々敬久監督)は女相撲一座とアナーキストという体制外の二つのグループを通して時代の空気を伝えた。

 事件が気になった百合は秩父の現場を訪れ、少年を追う陸軍の動きを知る。少年を救う百合の手には大型リボルバーSWM1917が握られていた。
 百合はかつて台湾で活動した幣原機関で16歳から訓練を受け、最高傑作と呼ばれた。組織の長、水野寛蔵と愛人関係にあり子供ももうけたが、内部のいさかいの中で死なせ組織を抜けた。
 百合は店に出入りする弁護士岩見良明(長谷川博己)と事件の背後を探った。その結果、分かったのは―。
 少年・慎太(羽村仁成)は、父・細見欣也(豊川悦司)が陸軍の資金を元手に蓄えた巨額のカネ(当時の国家予算の10分の1と言われた)の口座番号メモと暗証番号の手がかりを託されていた。欣也を殺害した陸軍の狙いもそこにあった。
 リボルバー・リリーと呼ばれた百合と陸軍、さらに海軍を巻き込んだ戦いが始まった。

 元殺し屋が他人の子を連れ組織に立ち向かうという構図は、少し古いが「グロリア」を思い出す。「子供嫌い」の主人公(ジーナ・ローランズ)の不器用な優しさが印象に残った。「どうして私に押し付けるのよ」と死者に愚痴を言うシーンがリリーの人間味を感じさせるが、それ以外は、ただ気丈な女スパイである。かといってアンジェリーナ・ジョリーのイヴリン・ソルトほどのアクションもない。「ダークヒロイン」というキャラクターの輪郭は不明瞭だ。

 ラストは東京・日比谷の海軍省前での陸軍部隊とリリーの銃撃戦。霧の中の戦いは戦時下の孤独を描いたベルナルド・ベルトルッチ監督「暗殺の森」、満州を舞台にしたチャン・イーモウ監督「崖上のスパイ」を思わせる。だが、そこまで美しくない。それより、白昼の公道で元特務機関員と陸軍が軍資金目当ての銃撃戦、という構図自体が現実離れしていないか(原作通りかもしれないが)。「崖上のスパイ」のような工作員同士の争いとした方がリアルに思う。
 帝国、女スパイ、軍部の主導権争いーと、魅力的な3点セットだけに、作品の立て付けの弱さが残念だ。
 2023年、監督行定勲。この監督は、甘さのある物語を手掛けたら追随を許さない。少し勝手が違ったか。


リボルバーリリー.jpg



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