悔恨と復讐~映画「カード・カウンター」 [映画時評]
悔恨と復讐~映画「カード・カウンター」
「タクシードライバー」(1976年)のマーティン・スコセッシ監督が総指揮をとり、脚本のポール・シュレイダーが脚本・監督。25年ぶりタッグを組んだ結果は…。
カード・カウンターと呼ばれるウィリアム・テル(オスカー・アイザック)はギャンブラーらしからぬ日常を送る。カジノを回り安ホテルに泊まる。持参のシーツで家具を覆い、壁の絵も取り外す。小さくかけて小さく勝つ。勝負は堅実だ。カードの出た目と出ていない目を脳裏に刻み、確率を計算する。
その能力はどこで養われたか。自ら「自分に合っている」という10年近くのムショ暮らしで身に着けた。イラクのアブグレイプ収容所で捕虜拷問の特殊任務に就いたが、虐待が問題になり軍刑務所へ送られた。命令したジョン・ゴード少佐(ウィレム・デフォー)は不問だった。
寡黙で目立たず、修行僧のような男に二人が近づいた。一人はギャンブル・ブローカーのラ・リンダ(ティファニー・ハデッシュ)。彼女はポーカー世界大会参加を持ちかけた。一人はカーク(タイ・シェリダン)。彼の父親もゴードの部下で、捕虜虐待を問われ自殺した。カークは父の復讐をもくろんでいた。
ウィリアムはある町で偶然、セキュリティについて講演するゴードを見かけた。復讐を達成するため一転、ポーカー世界大会へ参加を決める。3人のチームが成立した。
ウィリアムがカークに、ギャンブラー生活の感想を聞く。「毎日同じことの繰り返しだ」とカーク。「そうだ。ひたすら回っている」とウィリアム。修行僧の顔がのぞく。結局、カークには学生ローン(大学を中退していた)や母親の借金返済にと15万㌦を渡し、家に帰るよう促す。しかし、向かったのはゴードの自宅だった。
ニュースでカークが射殺されたことを知ったウィリアムは、ゴードの自宅を訪れ「再現ドラマをしよう」と、あの時のように拷問を仕掛けた。
刑務所に戻ったウィリアムに、リンダが面会する。このシーン、どう読むか。私には、刑務所を出て再び舞い戻り、リンダと再会するまでが輪廻の一回りのように思える。「ムショ暮らしが合っている」というウィリアムは服役を終えると、さらに腕を磨いたカード・カウンターとして全米のカジノを「ひたすら回る」のではないか。
「タクシードライバー」では、ベトナム帰りの元兵士(ロバート・デ・ニーロ)が街の退廃と堕落を見かね、一人のテロリストとして怒りをぶつけるが「カード・カウンター」では自らの過ちへの悔恨を内に秘め、寡黙にひたすら生きる。静かな中に社会悪を浮き彫りにしたスコセッシのカラーは健在。
2021年、アメリカ、イギリス、中国、スウェーデン合作。
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