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果たして、命は数式で計算できるのか~映画「WORTH 命の値段」 [映画時評]

果たして、命は数式で計算できるのか
~映画「WORTH 命の値段」


 資本主義の牙城アメリカ、ついにここまでやるか、という映画。2001年の米中枢多発テロ、いわゆる「9.11」で亡くなった人々の補償交渉を担当した弁護士の話。もちろん、核心はそれぞれの補償額をどう計算するか。つまり、命の値段の算定方法。

 事件後、米政府は約7000人とみられた遺族ら救済のため補償基金プログラムを立ち上げた。管理人に選定されたのが弁護士ケン・ファインバーグ(マイケル・キートン)。補償額の算定式を編み出し、遺族との交渉に臨んだ。しかし、画一的な手法で命の値段が決められることに、当然ながら反発は強かった。ケンの提案が受け入れられなければ航空会社を含めた訴訟が多発し、収拾のつかないことになると思われた。
 遺族の中に冷静沈着な男がいた。チャールズ・ウルフ(スタンリー・トゥッチ)。妻を事件で亡くしていた。当初ケンに理解を示すかのようだったが、遺族らの先頭に立ち、機械的な補償案に批判的なグループを立ち上げた。サイトには彼の分析が掲載され、合意交渉は遅々として進まなかった。
 事件で命を失ったケースはさまざまだった。ビル倒壊の警告後、救助に入って落命した消防士。その警告は的確だったのか。同性愛者のパートナーを失ったケース。補償を認めるかどうかは州によって異なった。一定の算出法で答えが出るはずもなかった。人間的な要素が大きく作用していた。
 チャールズの批判を受け、ケンは補償対象をできるだけ拡大することにし、個々のケースの聞き取りに全力を挙げた。
 交渉の期限は200312月。ここまでで遺族の8割の合意を得ることが、政府との約束だった。そして期限切れ寸前、反対派のリーダー、チャールズが宣言を出した。補償案は受諾に値すると。ケンの路線修正と努力が受け入れられたのだ。その結果、遺族の大多数が署名した。

 極めて粗くストーリーを追えば、こんな感じだろうか。当初は機械的で単一的だった命の値段の算定方法が、遺族との交渉の中で柔軟性を持ち、個々の具体例に沿うものとなった。その結果、いかにもアメリカ的な大団円。しかし、命は画一的であれ個別的であれ、数式によって算出できるものなのか、という大テーマの答え、もしくは出口を示唆する風景はついに示されなかった。
 2019年、アメリカ。監督サラ・コランジェロ。ケン・ファインバーグは実在。


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