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戦争の根源的な罪を描く~映画「ドンバス」 [映画時評]

戦争の根源的な罪を描く~映画「ドンバス」


 ウクライナ東部ドネツク、ルハンシク二つの地域を舞台に13のエピソードで構成。ドキュメンタリータッチだが、演出による映像である。2018年製作。したがって2022年2月以降のロシア侵攻は踏まえていない。
 エピソードは、いくつかを除いて連続しない。描かれるのは、親ロシア派によるフェイクニュース(プロパガンダ)映像の実態であり、その結果掻き立てられた民衆の怒りと憎悪と狂乱である。そして、巧妙に立ち回る親ロシア派兵士と警察官僚。

 冒頭、ロケバスのシーンから始まる。メーキャップをした市民が、ウクライナの攻撃で逃げ惑う。意図的な映像製作。地下シェルターでは湿気の多い部屋に市民が「避難」している。女性がすごい剣幕で乗り込み、母親と思われる女性を無理やり連れ帰ろうとするが、応じない(このシーン、どちらがロシア側か分からないので意味不明)。
 ウクライナ兵士と思われる男性が親ロシア派兵士に連行され、通りの樹木に縛り付けられる。人々が集まってくる。無抵抗の兵士を罵倒し、暴力を振るい始める。このシーンは、恐怖感を募らせる。
 醜悪さとともに印象的なのは(もちろん、そういう演出だが)中年男女の結婚式のシーンだ。巨大な白いリムジンで教会に乗り込んだ二人は、狂ったように誓いの言葉を述べ「ノヴォロシア(新しいロシア)」を絶叫する。
 市民だけではない。警察官僚は市民に賄賂を要求し、兵士は盗んだ車を「徴発」と押し通す(この時の兵士が結婚式シーンにも登場する)。
 ラスト。冒頭のロケバスのシーンに戻る。兵士が中にいた12人全員を射殺する(親ロシア派兵士による証拠隠滅?)。
 ロシア語、ウクライナ語が使われるが、字幕が小さく意味が読み取れない部分があり残念。ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督。

 で、この映画の意図するものは…。
 ウクライナ東部のロシア占領地域で非人道的なことが行われていた、とだけ読むのは浅薄だろう。戦争ではいつも、プロパガンダによって市民は憎悪と怒りを掻き立てられ、前線へ動員される。その点、ロシアもウクライナもない(言い換えれば、この映画で親ロシア派を親ウクライナ派に置き換えることは可能だ)。もちろん、ロシアの理不尽な侵攻を是認するという意味ではない。戦争や暴力の根源的な罪深さを描いた、と読みたい。


ドンバス.jpg


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