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切り口が一面的~映画「ザ・ユナイテッドステイツvs.ビリー・ホリデイ」 [映画時評]

切り口が一面的~映画「ザ・ユナイテッド
ステイツvs.ビリー・ホリデイ」


 ビリー・ホリデイ。1915年、ボルチモアで生まれ1959年、ニューヨークの病院で44年の生涯を閉じた。10歳で処女を奪われ14歳で春を売った後、15歳でニューヨークのクラブ歌手になった【注】。貧困と麻薬と酒が彼女を蝕んだが、後に「不世出のジャズ歌手」と呼ばれた。人種差別を告発した「奇妙な果実(Strange Fruit)」(1939年リリース)が人々の記憶に残った。
 「南部の木には奇妙な果実がなる」で始まるこの歌は、黒人に対する故なきリンチ(ハンギング)の光景を正面からうたった。折からの公民権運動を支えるアジテーション・ソングとなった。男との愛の日々を歌って人気を博したビリーがこの歌を歌うと効果は絶大で、人々の心のうちに反権力の風が満ちた。
 FBIは治安対策上この歌を問題視した。しかし、全体主義国家ではないアメリカで、反権力や反国家を理由に取り締まることはできない。そこで罪名を薬物違反に求めた。

 「ザ・ユナイテッドステイツvs.ビリー・ホリデイ」は、こうした文脈上でFBIとビリーの攻防を描いた。連邦麻薬局のアンスリンガー(ギャレット・ヘドランド)は取り締まりキャンペーンのため、象徴的事例を求めていた。黒人捜査官ジミー・フレッチャー(トレバンテ・ローズ)が証拠収集のためビリー(アンドラ・デイ)のもとに送られる。ジミーは彼女の闘う姿勢に心酔し、捜査上の任務とのはざまで苦悩する。最終的にビリーは薬物違反でとらえられ1年間の刑に服するが、ジミーは生涯、この時のことを悔やんだという。

 個人的な感想を言うと、ビリー・ホリデイを取り上げたにしてはタイトル(原題も同じ)が軽い。ゲーム感覚的なにおいがする。作品の切り口も陰謀論的で一面的だ。もう少し正攻法で、この「不世出の歌手」の奥行きを見せても良かったと思うが、アメリカ的ショービジネスの世界ではやむを得ないことなのだろうか。これだけ極上の素材を扱うにしては手法がもったいない、と思うのだ。
 2021年、アメリカ。監督リー・ダニエルズ。

【注】「奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝」(晶文社)著者についての注釈などから。


ビリーホリデイ.jpg


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