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この奇妙な空虚感はなんだろう~映画「コレクティブ 国家の嘘」 [映画時評]

この奇妙な空虚感はなんだろう~
映画「コレクティブ 国家の嘘」


 2015年、ルーマニアの首都ブカレストで起きたライブハウス火災のその後が、政府、医療機関、製薬会社一体となった癒着のトライアングルを明るみに曝した。その過程で大きな力となったのが、あるスポーツ紙の調査報道だった。
 「コレクティブ」でバンド演奏中に起きた火災は27人死亡、180人負傷という惨事となった。しかし、事態はこれでおさまらなかった。病院に分散収容された人々が、数カ月間で37人死亡したのだ。不審を抱いたポーツ紙「ガゼタ・スポルトゥリロル」のカタリン・トロンタン記者らが調査報道を重ね、病院で使われた消毒液が基準を満たしていないことを突き止めた。薄められた消毒液のため濃緑菌が蔓延し、ウジ虫がわいたのだ。保健医療相は検査の結果、問題はなかったと発表したが疑惑は晴れず、提供したヘキシ・ファーマ社のコンドレア社長は謎の死を遂げた。
 広がる疑惑に国民の怒りは頂点に達し、社会民主党内閣は総辞職、無党派の実務者内閣が次の選挙まで1年間、問題の処理に当たった【注】。
 ドキュメンタリー映画だが、展開のテンポの良さと緊迫感は計算されたフィクションのようだ。カトリック教会の腐敗を追及した米紙を描く「スポットライト 世紀のスクープ」になぞらえる向きもあるが、納得である。
 ルーマニアといえば東欧の絶対権力者だったチャウシェスク大統領が民衆蜂起によって処刑されて事件当時20年余り。以来、安定的な政治体制が築かれたというニュースを聞かない。そうした社会状況の中、国家と国民の間の奇妙な空虚感が画面全体に流れている。信念と情熱にあふれた民衆と、それをバックにしたジャーナリストの正義の闘い、というのとは少し違って見える。
 2019年、ルーマニア、ルクセンブルグ、ドイツ合作。監督アレクサンダー・ナナウ。

【注】ルーマニアは、今日多くの旧ソ連圏がそうであるように半大統領制。外務省基礎データによると201511月以降テクノクラート内閣が政府を率いたが、201612月の議会選で中道左派の社民党が圧勝、中道右派の大統領とねじれ関係になった。


コレクティブ.jpg


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