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戦争の悲惨、愚直に描く~映画「1941 モスクワ攻防戦80年目の真実」 [映画時評]

戦争の悲惨、愚直に描く~
映画「1941 モスクワ攻防戦80年目の真実」


 194110月、ワルシャワ街道を驀進するドイツ戦車軍団とソ連軍との死闘を描いた。この年の6月、独ソ不可侵条約を破棄してバルバロッサ作戦を断行したドイツ軍は、フィンランドからコーカサスまで数千㌔に及ぶ戦線を構築。9月にはレニングラード包囲網を形成、900日に及ぶ攻防戦で100万人以上の餓死者が出たとされる。そのころの、独ソ戦の分水嶺ともなった戦場を描いた。
 モスクワ正面作戦がソ連軍の強硬な反攻をうけ、ドイツ軍はスターリングラード及びコーカサスへと主力部隊の展開先を変えた。長く延びた補給路確保のため、ヒトラーが南部油田地帯をほしがったことも背景にあった。しかしモスクワ、レニングラード、スターリングラード三方面作戦からモスクワを外した二方面作戦への転換は、短期決着を目指したドイツ軍の優位を揺るがすものとなった。
 このときのモスクワ攻防戦はどんな状況だったか。

 ――モスクワを南北からうかがう態勢にあったドイツ軍も、1942年初頭には、完全に撃退されていた。なかには、250㌔の後退を余儀なくされた部隊もあったほどである。
 ――だが、モスクワ前面の反攻に参加したソ連軍諸部隊は、実は装備豊かでもなければ、潤沢な補給を受けていたわけでもなかった。(大木毅「独ソ戦 絶滅戦争の惨禍」から)

 兵員も、かき集めの新編部隊だった。
 こうした状況下、映画は進む。ドイツ戦車の進攻に危機感を抱いたソ連軍はポドリスク兵学校の士官候補生や看護師らを戦線に送り、防衛線を形成する。しかし、火力で圧倒的に勝るドイツ軍を前に、戦場は地獄と化した…。
 若者の恋愛物語が挟まれ人間ドラマの味わいもあるが、主役はあくまで戦車や大砲である。機械化された戦場で人間の命はかくも軽いものかが見せつけられる。珍しくロシア側から独ソ戦をとらえたこと、タイトルに「80年目の真実」とあること(原題は「The Last Frontier」)から、知られざる史実が盛り込まれているかと期待したが、それはなかった。ソ連側だけで死者500万人【注】を出した独ソ戦の悲惨さを、正面から愚直に描いた。

 2020年製作。監督バディム・シメリエフ。

【注】第二次大戦でのソ連側死者数は非戦闘員含め2700万人。冷戦時代には2000万人とされたが後に上方修正された。ドイツは第二次大戦全体で600万人から800万人と推計される。日本の死者数310万人と比べると、特にソ連の人的被害の過酷さが分かる。


1941.jpg


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