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偉大な父を持ったことの悲劇~映画「ミス・マルクス」 [映画時評]

偉大な父を持ったことの悲劇~映画「ミス・マルクス」


 哲学者であり経済学者でもあったマルクス。彼の思想は、20世紀の世界を二分する原因ともなった。今でも信奉者は多い。そのマルクスの娘の生涯を描いたのが「ミス・マルクス」である。

 1883年、ロンドン。マルクスの葬儀から始まる。思い出を語るのは四女のエリノア(ロモーラ・ガライ)。マルクスの秘書として「資本論」の英語版を刊行した。独身のまま28歳になっていた。やがて劇作家のエドワード・エイヴリング(パトリック・ケネディ)と出会う。恋に落ち一緒に暮らすが、彼には妻がいた。そのうえ浪費家だった。その点は父カールも同じだった。浪費癖のため、よく盟友のフリードリヒ・エンゲルス(ジョン・ゴードン・シンクレア)に無心した。
 エリノアは、ドイツ社会民主党の資金集めのためエイヴリングと訪米するなど、父が亡くなった後も社会主義と労働者のために働いた。貧しい側に立とうとするエリノアにとって、金銭トラブルが絶えないエイヴリングは悩みの種だった。

 あるとき、友人の前で寸劇が披露された。イプセンの「人形の家」を翻案した。
  「私は不当に扱われてきた。最初は父によって、次はあなたによって」とエリノア。喝采を浴びたが、エリノアにとっては本音だった。

 偉大な父を持つことは幸せでもなんでもでもない、とこの映画はいっている。「資本論」を忠実に行動に移しても、父の影を追ったに過ぎない。妻の死後、若い舞台女優を後妻にするなど、実生活ではエイヴリングの不実に悩まされ続け、結婚に至ることはなかった。死の床のエンゲルスから、彼の子と信じていたフレデリック(オリヴァー・クリス)が父カールと家政婦の子と打ち明けられたことも、衝撃だった。
 エリノアは生涯、父の巨大な影に悩まされたファザコン女性というほかない。エイヴリングの一見優しい人間性におぼれたのも、その心象の故ということだろう。彼女は1898年、服毒自殺を遂げた。43歳だった。バックにハードなロックが流れ、一見イケイケムードのつくりだが、ストーリーの核心部は重くて切ない。
 監督・脚本スザンナ・ニッキャレッリ。2021年、イタリア、ベルギー合作。


ミスマルクスのコピー.jpg


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