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のし上がった作家の孤独と飢餓感~映画「マーティン・エデン」 [映画時評]

のし上がった作家の孤独と飢餓感
~映画「マーティン・エデン」


 米国の作家ジャック・ロンドンの自伝的小説を、イタリアを舞台として映画化した。労働者階級に育ったマーティン・エデンは貧しい生活の中で自らの文才に目覚め、のし上がっていく。しかし、つかんだ栄光は彼の孤独感をいやすものではなかった…。
 どこかで観たな、この物語。この既視感はどこからくるのか。1970年前後に一世を風靡した「あしたのジョー」そのものではないか。そういえば、マーティンを演じたルカ・マリネッリの風貌は、リング上で灰のように燃え尽きた矢吹丈に通じるように思える。
 マーティンはナポリで、船乗りとして日銭を稼いでいた。ある日、港で大男に絡まれた少年を助ける。ブルジョア家庭に育った少年は、マーティンを自宅に招いた。そこで会った姉のエレナ・オルシーニ(ジェシカ・クレッシー)に一目ぼれしたマーティンだが、エレナの周囲は彼の育ちの悪さと粗暴さを敬遠した。ブルジョア階級にのし上がりたいとマーティンは独学で文法を覚え、ひたすらタイプライターを打ち込んで出版社に原稿を送った。そしてやっと、雑誌に掲載がかなった…。
 時代は戦争を前にして【注】、不穏な空気が漂っていた。労働者は社会変革を求めていた。そんな中で、マーティンは革命家として祭り上げられる。しかし、彼にはかつてのような労働者階級の魂は持ち合わせてはいなかった。焦燥と孤独が彼の心を覆っていった。
 2020年、イタリア、フランス、ドイツ合作。監督はドキュメンタリー作品で名高いピエトロ・マルチェッロ。16ミリフィルムを使い、いかにもイタリア映画的なザラザラした画面が主人公の精神的な飢餓感を浮き立たせる。

 【注】ジャック・ロンドン自身は1876年にサンフランシスコで生まれ、第一次大戦最中の1916年に自殺した。映画は「戦争が始まった」時点で終わるが、現実に照らし合わせればこれは第一次大戦ということになる。もっとも、全編を通じて作り手は、史実との整合性をあまり求めていないようにも見える。


マーティン・エデンのコピー.jpg


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