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目をそらさないで、真実は美しい~映画「ある画家の数奇な運命」 [映画時評]

目をそらさないで、真実は美しい
~映画「ある画家の数奇な運命」


 まだ訪れていないが、愛媛県の沖合に浮かぶ豊島に小さな施設があり、不思議なものが展示してあるそうだ。190㌢×180㌢のガラス板が14枚。置かれた角度は少しずつ違っていて、陸側から海側にしか見通せないようになっている。「Futility」(無用)とタイトルがつく。作者はドイツの芸術家らしい。

 「ある画家の数奇な運命」は、第二次大戦をくぐり抜けた一つの人生を描く。
 クルト・バーナード(トム・シリング)の叔母エリザベト・マイ(ザスキア・ローゼンタール)はある日、奇矯な行動がもとでナチに連行された。ナチはユダヤ人だけでなく精神的、身体的障害者も安楽死の対象としていた。エリザベトは統合失調症と診断の上、収容所に送られた。待っていたのはガス室だった。
 戦争が終わり、クルトは東ドイツの看板屋で働いた。画才を認めてくれたエリザベトと美術館通いをしていたクルトは画家の夢がたてず、美術学校に通う。出会ったのは、エリザベトの面影を持つエリー(パウラ・ベーア)だった。やがて妊娠したエリーはクルトと結婚しようとするが、彼女の父カール・ゼーバント(セバスチャン・コッホ)が反対。虚偽の理由をでっち上げて中絶させてしまった。実はカールは、エリザベトに収容所行きの診断を行ったナチの軍医だった。
 ベルリンの壁ができる直前、クルトは西ドイツに移住する。エリーの父カールも、ナチ時代の追及を恐れて東ドイツを出た。カールとクルトとエリーの、西ドイツでの生活が始まる…。
 クルトは身を寄せた美術学校の教授から「君の絵ではない」と批判を受け煩悶するが、やがて写真を模写してわざとぼかす、という手法こそ自分のアイデンティティの表現だと気づき、個展を開くまでになる。エリーは中絶の後遺症を克服、妊娠する。

 戦争を芸術家の視線を通して描いた作品として名作「戦場のピアニスト」(2002年、ロマン・ポランスキー監督)を既に持つが、「ある画家の数奇な運命」もまた同じ構造を持っている。神の眼ではなく、地上に住む芸術家個人を通して見た戦争の姿がある。ただ「戦場のピアニスト」ほど「戦場」に密着してはいない。もう少し軸足が芸術家の心象にある。叔母エリザベトへの思慕と妻エリーへの愛にそこそこ比重があり、背後に戦争のもたらした傷跡がある。主人公はドイツ現代美術の巨人カール・リヒターになぞらえた、といわれる。しかし、ドナースマルク監督によるとすべてが事実ではなくフィクションが混じっており、線引きは曖昧にしたという。2020年、ドイツ。

 さて、冒頭の不思議な作品。カール・リヒターの手による。映画では二つの言葉が心に残った。二つともエリザベトの言葉で、一つは原題ともなった「Never Look Away」(目をそらさないで)、もう一つは「真実はすべて美しい」。瀬戸内海の小島の作品もまた、この二つの言葉でその価値の扉が開くように思える。いつか訪れてみたい。


ある画家ののコピー.jpg


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