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ジャーナリズムの原点を問う~映画「はりぼて」 [映画時評]

ジャーナリズムの原点を問う~映画「はりぼて」

 保守王国富山県内をエリアとするチューリップテレビ。開局は1989年だから日は浅い。社員は100人に満たない。TBS系列の番組を多く流す。典型的な地方局である。この局の報道が4年前、全国的な注目を浴びた。
 富山市で起きた議員辞職ドミノ。発端は市議会のドンと呼ばれた議員の政務活動費の架空計上だった。議員辞職に追い込まれ政務活動費は返上した。架空計上は次々に明るみに出て、最終的に辞職議員は14人、返上した政務活動費は計4000万円以上に及んだ。2016年のことである。
 なぜこんなことが突然起きたか。全国で報道されたのでニュースは関知していたが、起爆剤がなんであったかはよく知らなかった。火をつけたのは、チューリップテレビのキャスターと前線記者だった。公開された政務活動費報告を丹念に調べ、領収書と照合し、嘘を暴き出した。疑惑を報道された議員は自民党系の有力者だけでなく議長、野党にも及んだ。
 政務活動費は、ともすれば第二の議員歳費と受け取られる。領収書をでっち上げ、架空の活動報告を仕立てて帳尻を合わせる。そんなことが富山だけでなく、おそらく全国の地方議会でまかり通っている。チューリップテレビの記者は報道の原点に立ち、極めてまっとうな手段で事実を暴き出し、議員を追及した。その結果、2015年に100%だった政務活動費の使用状況は翌年62%にダウンした。税金の無駄遣いが、それだけ減った。
 その経緯を丹念に追ったドキュメンタリーが「はりぼて」である。報道は菊池寛賞受賞という栄誉に輝いたが、映画自体は気になる終わり方をしている。中心となったキャスターは社をやめ、記者は配置転換によって取材現場を離れた。何があったのか。キャスターが示唆したように、経営方針が変わったことは明らかだ。報道が必ずしも万人に好感を持たれていないことが推測される。
 そんな懸念は残るものの、報道は極めてプリミティブにジャーナリズムの原点とは何かを考えさせる。ある地方の特殊な出来事ではない。いいかえれば、題名となった「はりぼて」とは何を指すのか、というところまで行きつく。昨今、メディアを賑わす広島三区の選挙資金ばらまきもそうだろう。安倍晋三前首相後援会の「桜を観る会」前夜祭の会費補てんもそうだろう。掘り起こせばもっと多くのことが明るみに出るに違いない。映画の射程は、そこまで届いている。
 2020年、日本。監督は五百旗頭幸男、砂沢智史。だれだろう、と思う向きがあるかもしれない。チューリップテレビでキャスター、記者を務めた二人である。


はりぼてのコピー.jpg


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