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答えは自分で見つけよう~映画「独裁者と小さな孫」 [映画時評]

答えは自分で見つけよう~映画「独裁者と小さな孫」

 

 民主主義とは面倒くさいもの、とよく言われる。実際、第2次大戦直後のドイツで世論調査をしたら、戦争前のナチ時代が良かったとする回答が4割もあったという。一方でヴァイマール時代の支持者は数%だった。独裁体制は手続きも簡単で決断も早く、独裁者が錯乱してさえいなければ合理的でさえある。民主主義体制だと決断は遅く、しかも判断が右往左往する。しかし、この面倒くささが、社会の運営には必要なことなのだ。なぜなら、権勢をふるうものは必ず腐敗するから。

 大統領による独裁体制が敷かれた、ある小国が舞台。突然、銃声が響き民衆の反乱が起きる。大統領は孫を連れ、国内を逃亡する。ガソリン切れで車を捨て、羊飼いを装ったり、旅芸人を演じたり。そのうち、刑務所を出た男たちとトラックに乗り合わせる。おそらくは圧政に耐えかねて立ち上がった男たちであろう。もちろん、自分が大統領で「あった」ことなどおくびにも出さない。

 ある男は5年ぶりの我が家にたどり着く。そこには別の男がいた。当然であろう。5年間、音信不通だったのだ…。男はその場で自殺する。

 大統領だった老人はそうして民衆の苦しみを体感し、独裁体制への憎悪を受け止める。しかし、身分を明かすわけにいかない。やっとたどり着いた海岸線。国外逃亡までもう少しだ。しかし、背後には独裁体制で肉親を失い、憎しみの炎を燃やす民衆が迫っていた。果たして、憎悪は憎悪を生むだけなのか。民主主義と平和を芽生えさせるための知恵はあるのか。

 監督はイランのモフセン・マフマルバフ。度重なる検閲に抗議しヨーロッパに拠点を移す。主役の老いた大統領はグルジア出身のミシャ・ゴミヤシュウィリ。グルジア、フランス、イギリス、ドイツ合作で、セリフはグルジア語。とてもシンプルな筋立てで、余計なものは何もないが、小国の独裁体制という雰囲気がとてもにじみ出ているのは、グルジア語のセリフのせいか(「グルジア」というと、ついこの国出身のスターリンを連想してしまう。いやいや、これは偏見か)。老人が連れた小さな孫のあどけなさが、そうした殺伐とした雰囲気を逆に浮き上がらせている。ラストの答えは観るものが出しなさい、という意味であろう。骨太でずしんと来る。独裁はダメ、民主主義はいい、といった固定観念を揺さぶる、考えさせる映画である。

老人と小さな孫.jpg


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