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彼岸と此岸のラブストーリー~映画「岸辺の旅」 [映画時評]

彼岸と此岸のラブストーリー~映画「岸辺の旅」

 彼岸と此岸、生と死の世界を行きかう男と女の魂。詩的な映像の中で語られる愛とは、絆とは何か。一見、ストーリーは単純である。しかし、語られているものは何かを考えると、とても奥深い。湯本香樹実の原作だが、このあたりの味わいは村上春樹のようでもある。
 歯科医だった夫・優介(浅野忠信)が失跡して3年がたつ。瑞希(深津絵里)はピアノ教師をしながら、ようやく自立の道を歩み始めた。そんなとき、ふいに優介が帰ってきた。「俺はもう死んだよ」という。そして「とてもきれいな場所があるんだ。一緒に行かないか」と誘い、瑞希との旅に出る―。

 実は、優介がこの3年間、世話になった人たちのもとを再訪する旅だった。季節はめまぐるしく変わり、海山の景色も変転する不思議な旅で、何人かの元を訪れた優介は最後に「謝りたかった」と漏らす。何を…先に死出の旅に出てしまったことだろうか。職場での松崎朋子(蒼井優)との不倫のことだろうか。

 もちろん、瑞希と旅を共にした優介は、現世の優介ではない。彼岸からふらりと舞い戻った優介である。旅の終わり、ある海辺の寒村(おそらくそこから死出の旅立ちをしたのだろう)にたたずむうち、優介はふっと消えてしまう。二人の、文字通りの別れである。

 小さな新聞配達店を営む島影さん(小松政夫)、中華料理店を営む神内夫妻、山間にタバコ畑を持つ星谷老人(柄本明)と義理の娘・薫(奥貫薫)、薫の息子・良太。薫の亭主、つまり星谷老人の息子は亡くなったはずだが、ある日、この亭主と薫がともにいるのを、優介と瑞希は目撃する。

 生者と死者が入り組み、愛憎がもつれる。詩的で不思議な映画である。黒沢清監督。

岸辺の旅.jpg


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