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新自由主義との決別を~濫読日記 [濫読日記]


新自由主義との決別を~濫読日記

「右傾化する日本政治」(中野晃一著) 

10-1-2015_001.JPG 多くの反対論をよそに、安保法制は成立した。2014年末の総選挙では誰も(少なくとも多くの国民が)望んではいなかった「戦争する国」への転換である。どうしてこうなってしまったのか。それを考える手がかりとなる一冊である。

 戦後日本は「平和主義」を看板にやってきた。その看板をなぜいま外す必要があるのか。誰がそれをしようとしているのか。著者は、そこから考え始める。

 戦後日本の政治的バックボーンを作ったのは吉田茂である。1951年のサンフランシスコ講和条約調印とともに、米軍は日本国内にいつでもどこでも基地を作れる、という日米安保条約に一人でサインした。この時から日本は軽武装、経済重視、憲法の平和原理を国家運営の原則とした。安倍晋三首相が唱えた「戦後レジームからの脱却」とは、この大原則を変えようとするものである。なぜ変えようとしたのか。

 冷戦終結(1989年)によって、日本の国際的立ち位置は変更を迫られた。湾岸戦争(1991年)で日本は巨額の出資をしたにもかかわらず、国際的にほとんど評価されなかったことは記憶に新しい。それは保守政治にとって「湾岸コンプレックス」という形で引き継がれた。これに資本主義の末期現象である新自由主義の台頭が加わる。「小さな政府」をめざす新自由主義はしかし、規制撤廃と既成権益の排除を目指すものだから、必然的に強い権力行使を求める。すなわち「国家主義」への志向が強まる。

 これが、旧右派と新右派の違いである。保守思想において、旧右派の時代には「平和主義」が生息する余地があったが、新右派ではそれがない。

 もう一つの問題は選挙制度である。ポスト冷戦をにらみ、強い国家を目指して現在の小選挙制度は志向されたが、この制度下では、一定の政治選択の自由は「2大政党制」(=オールタナティブの存在)によって担保されるものだった。しかし、民主党政権が無残に崩壊した中で、今の日本は完全に政治選択の幅を失っている。誰も望んではいない、復古的軍国主義をまとった安倍政治の横行は、2大政党制が存在しない小選挙区制という政治改革の失敗に起因するところが大きい。

 では、どうするか。政治学者丸山真男はファシズムの担い手を都市の中間層としたが、現在の政治状況では都市型中間層は「新自由主義」を標榜する右派の政党(自民に加え、維新関西派)に絡めとられている。この中間層をリベラルの側に奪還することが求められる(その意味で、いま進んでいる維新の分裂は象徴的だ)。そのためには、戦後民主主義への回帰にとどまらない、新たなリベラル思想の創出が必要だろう。

 失敗に終わったと総括するしかない選挙制度は、変更可能だろうか。この点で、極めて悲観的にならざるを得ない。ではどうするか。現行の小選挙区制度が続く限り、泣いても笑っても自民党に対抗する「リベラル」政党を作るしかない。中野も書いているが、新自由主義と決別したリベラル思想が作れるかどうか。これが、今後の日本政治の右傾化を食い止めるカギになるだろう。極めて困難ではあるが、実現不可能な課題とは思えない。なぜなら、中野が言うように現在の政治の右傾化は一部の政治エリートによって主導されており、決して市民社会主導によるものではないからだ。

「右傾化する日本政治」は岩波新書、780円(税別)。初版第1刷は2015722日。中野晃一は1970年生まれ。東京大文学部、英オックスフォード大哲学・政治コース卒。上智大国際教養学部教授。比較政治学、日本政治、政治思想。

右傾化する日本政治 (岩波新書)

右傾化する日本政治 (岩波新書)

  • 作者: 中野 晃一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 新書

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