戦時下を生き延びた8歳~映画「ふたつの名前を持つ少年」 [映画時評]
戦時下を生き延びた8歳~
映画「ふたつの名前を持つ少年」
ポーランドの大地を逃亡するのは、8歳の少年。彼は実にその後3年間をたった一人で逃げきる。いや、たった一人ではなかった。周囲の人々の善意に支えられて、彼は生き延びることができたのだった。
ユダヤ人強制居住区を脱走したスルリック。当初は父と行動を共にしたが、ナチス・ドイツの兵士に見つかり、父へ銃口が向けられている間に彼は逃げてきたのだ。その後も、冬の沼地を這い、森を走ってきた。行き倒れたのは、幸運にもポーランドのパルチザン兵士を待つ女性の家の前だった。彼女に、ポーランド人の名前「ユレク」を名乗るよう教えられる。ユダヤ人であることを隠さなければならないからだ。しばらくそこで静養したものの再び危険が迫り、少年は逃亡を再開する。
農家で働いている時には、手を庭先の機械に挟まれ、腕ごと切り落とす羽目に。それにも負けず、彼はひたすら東へと逃げる。そしていつしかソ連軍の支配地域に入り込んでいた。訪れたのは、ナチス・ドイツの降伏と戦争の終わりを告げる知らせだった。
実話に基づく原作を、ドキュメンタリーで定評のあるペペ・ダンカートン監督がリアルな映像に仕上げた。スルリックは双子の兄弟(アンジェイ・トカチ、カミル・トカチ)が演じたという。戦時下のポーランドを生き延びた実在の男性はワルシャワの孤児収容施設を経て現在、イスラエルで生活しているという。
ドイツ、フランス合作。感心するのは、かつてのドイツの戦争犯罪をドイツ人が監督し製作している点だ。日本の戦争犯罪を正面から見据えた作品を日本人監督によって製作することが今の日本で容易でないことを考えれば、その点からもこの作品の意味と価値が分かる。
2015-09-28 09:47
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