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アスリートを通して描く歴史の影~映画「ミルカ」 [映画時評]

アスリートを通して描く歴史の影~映画「ミルカ」

 一人の世界的アスリートの成長物語であるが、その一言で語りつくせない歴史的な影を一方で描こうとした大河ドラマ。背景にインド的ナショナリズムが見え隠れするところがインドの大衆には受けるのだろうが、日本人からするとやや気にはなる。

 1960年のローマ五輪。「金」を確実視されていたインドのランナー、ミルカ・シンは盤石のレースにもかかわらず、ゴール直前で後ろを振り返ったためメダルを逃す。彼はなぜ振り返ったか。そこには、幼いころに目撃した「事件」のPTSDが潜んでいた。

 第2次大戦後、英領から独立したインド帝国はヒンドゥー、イスラム、シークなどの宗教的対立もあって分離独立の動きが強まる。現在のパンジャブ州に住んでいたミルカの家族は敬虔なシーク教徒であったが、インド・パキスタンの分離独立運動に絡む宗教的な対立の中でほとんどが虐殺される。父親に促されてその場から逃げたミルカは、一瞬後ろを振り向き、そこで見たのは父親が虐殺される瞬間だった―。

 彼は貧困の中を生き抜き、強靭な肉体を武器に軍隊入りを志願する。そこで陸上の天与の才を認められ、400㍍ランナーになる。しかし、意識しないまま彼の心にはいつまでもいえぬ傷がうずいている。

 ローマ五輪の後、世論からは「悪夢」とたたかれた彼に、パキスタンとの親善陸上出場の話が持ち上がる。深刻な紛争状態にあったインドとパキスタンの友好を深めようというものだ。しかし、かつての記憶が去らぬミルカは出場に二の足を踏む。首相にまで頼まれて出場を決意したミルカがとった行動は…。

 「歴史」という大河と、戦禍で失った家族への思い。その両方を、一人のアスリートの汗と涙を介在させながら描いたインド映画の力作である。ミルカを演じるファルハーン・アクタルの肉体も見もの。

ミルカ.jpg 

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