SSブログ

「メディアと政治」の通史~濫読日記 [濫読日記]

「メディアと政治」の通史~濫読日記

「日本政治とメディア テレビの登場からネット時代まで」(逢坂巌著)

10-24-2014_001.JPG  

「日本政治とメディア」は中公新書。920円(税別)。初版第1刷は2014925日。著者の逢坂巌は1965年福岡県生まれ。東京大法学部助手、立教大助教を経て立教大兼任講師。専門は現代日本政治、政治コミュニケーション。













 テレビ放送の免許が交付されたのは1952年である。この年、日本はサンフランシスコ講和条約を結び、翌年国際社会に復帰した。政治は吉田茂、鳩山一郎、石橋湛山らによって主導された。時をおかず、日本社会は保守、革新それぞれの大合同をへて、いわゆる55年体制へと突入する。

 考えてみれば、テレビ時代と55年体制は、ほぼ歩みを同じくする。「政治とメディア」でいえば、吉田、鳩山、石橋はそれぞれに軸足の置き方が違う。吉田は対米追従の軽武装・経済重視、鳩山は自由党をつくり自主外交・自主防衛、石橋は世論をバックに政治をすすめた。その違いが、テレビとの距離感にも現れる。

 この書は、戦後日本の政治史と新聞、テレビ、ネット社会の出現とを絡ませた「メディアと政治」の通史である。内容に目新しさがあるわけではないが、これまでの経緯を詳細に追ってみることで問題点の所在を確認するには格好の書であると言えよう。

 面白いデータが載っている。NHKテレビ・ラジオ契約者数と新聞購読者数の推移である。これをみると、60年を過ぎたころから急速にテレビが伸び、新聞と逆転している。このころから、ニュースを最初に知るツールとしても、テレビがトップになる。その結果として、それまで、せいぜい「炉辺談話」的なものを流すに過ぎなかったメディアが、ジャーナリズムの一翼を担うに至る。新聞が「暴力を排し議会民主主義を守れ」と7社共同宣言を出し、ひんしゅくと失望を買ったのに対し、テレビは反安保の街頭闘争をそのまま伝えた。社会党の浅沼委員長刺殺事件も、毎日新聞のスクープ写真があるにせよ、テレビの「動く絵」にこそ、大衆は臨場感を感じたのである。

 しかし、このことは、政治の側に「テレビ」を「利用すべき重要なツール」と意識させるに至った。すなわち、テレビは「政治」とどう向き合うかが問われ始めた、ともいえる。そうした観点で、象徴的な事例が、1973年6月の佐藤栄作首相退陣会見であろう。その前年の衆院予算委では、沖縄密約を裏付ける外務省公文書が暴露された。佐藤は、「テレビはどこかね」と発言し、「偏向的な新聞は嫌いなんだ」と、新聞を敵視する。佐藤はこの時、新聞報道はバイアスがかかるが、テレビは発言をそのまま伝えてくれると認識している。

 だが、テレビは、ロッキード事件をへて、「伝えるだけ」のメディアではなくなっていく。「ニュースセンター9」や「ニュースステーション」の登場である。ニュースはコメントが付加され、料理され、「色」や「味」のついたものとして扱われる。そして時に、政権の命運を握る存在にまでなる。田原総一郎による政治改革を巡る宮沢喜一首相インタビューである。「責任を持ってやります。私はウソをついたことはありません」と言質を与えた宮沢は、政治改革の頓挫によって退陣を余儀なくされる。

 細かく追えばきりがないが、しかし今、テレビは政権と丁々発止の対決をする存在ではなくなっている。新聞もまた、長期低落の中で迫力不足だ。ネットやツイッターが政治家に活用され、話題を振りまき、既存メディアの影を薄くしている。考えてみれば「テレビの時代」は、55年体制の終焉とともに幕を閉じたのかもしれない。かといって、ネットがジャーナリズムを背負う時代が来るとも思えない。

 では、ジャーナリズムの新しい時代はどんな形をしているのだろう。それを考えるためにも、この「政治とメディア」を巡る通史を読んでみるのもいいかもしれない。

日本政治とメディア - テレビの登場からネット時代まで (中公新書 2283)

日本政治とメディア - テレビの登場からネット時代まで (中公新書 2283)

  • 作者: 逢坂 巌
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/09/24
  • メディア: 新書



nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

BUN

新聞が出来事の解説でなく空気しか伝えず、テレビが娯楽だとすれば、破天荒なNETでは荷が重い。ジャーナリズムの新しい時代を築くのは、これまで信頼されることなく、先鞭を付けることにだけ甘んじてきた週刊誌だろう。コアなニュースは毎日でなくともよい。羅針盤となる週刊誌を望む。
by BUN (2014-10-26 23:26) 

asa

≫BUNさん
しかし、週刊誌も読者の活字離れを理由にバタバタと倒れ。いまや文春、新潮、現代、ポストおよびその周辺の超右翼的論調ばかりになってます。その中で、骨のある週刊誌が出てくれば少しは注目されるか…

by asa (2014-10-27 17:02) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0