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背景に、ひりひりする現実がある~映画「サスペクト 哀しき容疑者」 [映画時評]

背景に、ひりひりする現実がある~

映画「サスペクト 哀しき容疑者」


 いま「分断国家」と呼ばれるのは、朝鮮半島のほかには中国と台湾のみであろう。旧東欧圏に、かつて一つだったものが複数の国家に再編されたケースはあるが、これはもともと、国民のアイデンティティーと国家の枠組みが一致しなかったものが、社会主義圏というくびきが外れたたためもたらされた現象である。いま揺れているウクライナ、クリミアも、この範疇の問題ととらえていいかもしれない。

 そう考えていくと、かつての「冷戦」をいまだ生々しく引きずっているという意味で、南北朝鮮の問題はより深刻である。背景には、ロシアにとっての南下政策の要衝、中国にとっての玄関口、日米にとっての社会主義圏に対する防波堤に位置したという、地政学的に悲劇的な歴史の存在がある。そう言えば、「半島は爆弾でもある」と言ったのは中上健次(「夢の力」講談社、1994年)だった。

 映画「サスペクト」は、妻子を殺され復讐を誓った脱北工作員が主人公である。それも並ではない、生存率3%という「北」の特殊部隊の特別訓練コースを生き延びた男である。

 チ・ドンチョル(ユン・ユ)は運転代行業で日々の暮らしをしのいでいる。彼はたまたま、ある財界要人(パク会長)の殺害現場に居合わせ、死の間際にある会長から眼鏡を渡される。そこには、ある秘密が隠されている。しかし、ドンチョルはその日から、パク会長殺害の容疑を着せられ、追われる。追うのは対北情報局の凄腕ミン・セフン大佐(パク・ヒスン)。

妻子を殺害した謎の男を追うドンチョルは、同時に韓国情報局から追われる。韓国の街中で繰り広げられる凄まじいアクション。それを体現するユン・ユの、これまた凄まじい肉体。

どこまでも「小さな物語」に収れんする日本映画が追いつけないものを、この韓国映画は持っている。おそらくそれは、ひりひりするほどハードな物語のフレームであろうと思われる。それはいったい、どこからきているのか。これこそ、分断国家という現実の裂け目が生み出したものではないか、という気がする。そう考えたとき、まさしくこれは朝鮮半島の映画ではないか、とさえ思うのだ。

 サスペクト.jpg

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