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ヨーロッパ映画の魅力満載~濫読日記 [濫読日記]

ヨーロッパ映画の魅力満載~濫読日記


「ヨーロッパを知る50の映画」(狩野良規著)

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「ヨーロッパを知る50の映画」は国書刊行会。2400円(税別)。初版第1刷は2014年3月。著者の狩野良規は1956年東京生まれ。青山学院大教授。専門はヨーロッパ文学。

 












 このブログを見ていただくと分かる通り、ヨーロッパ映画を取り上げることが多い。別段ハリウッド映画はダメとか、日本映画はつまらないとか思っているわけではないが、結果的にヨーロッパ映画に足を運ぶことが多い。なぜだろう、ということを考える意味もあって、この書を手にした。もう一つ動機をあげれば、この書は50の映画を、映画監督の所属する国に従って機械的に北から南に並べているのだが、その結果始まりはフィンランドのアキ・カウリスマキでしんがりはギリシャのテオ・アンゲロプロス、最後尾のちょっと前はポーランドのアンジェイ・ワイダという、まことに魅力的なラインナップになっていることもある。もっともこの序列は作品の出来によるものでなく地理的なものだから、その順番で読まなければならないわけではないのだが。

 そんなわけで、この書のどこに注目したかといえば「ハリウッドとヨーロッパの違い」である。たとえばこんなことが書いてある。

 ――総じてハリウッド映画には、共感できる主要人物がいて、その人物とともに物語の世界を旅すれば、最後までゆるゆると楽しめるように作られている。(略)ヨーロッパ映画には観客が圧倒的に感情移入できる主人公はほとんど見当たらない。(略)ブレヒトの用語を借りれば、「異化効果」というやつである(ルイス・ブニュエル「ビリディアナ」の章)。

ふむふむ、その通りだろう。ハリウッド映画は、ときとして観客自身が歴史上のヒロインになったり、悪と闘うスーパー・ヒーローになったりする。そしてハラハラドキドキ。最後はアメリカ万歳の大団円だったりする。でも、ヨーロッパ映画では主人公は観客と一体化しない。いつも距離を置く。だから、極論すればストーリーがばれたってなんてことはない。そんなところを見に行ってはいないからだ。著者も、同じことを「はじめに」で書いていて、終幕をばらしてもどうってことはないのだから、当たり前のこととして終幕についても解説する、と言っている。

これは、アキ・カウリスマキの一連の作品にも通じる。出てくる女優はお世辞にも美人とは言い難く、おまけに仏頂面。そんな女が資本主義社会に牙をむき、復讐劇を企てる。それをまた、カウリスマキが、ちょっと斜に構えて描く(「マッチ工場の少女」)。はじめから、観客との一体感など求めてはいない。

 そうはいっても、ヨーロッパ映画だって観客とスクリーンの距離感だけではない。イタリア・ネオリアリズムと言われた時代の作品。例えば「自転車泥棒」なんて、久しく見ていないが今見ても、戦後のある時代の切々たる思いを十分に感じることはできるに違いない。1950年のキネ旬外国映画1位である。焼跡の記憶が生々しい日本人の共感を呼んだ。ちなみにこの年の日本映画1位は「羅生門」。ともに「貧困と生」が日々問われた時代の作である。そして、ヴィットリオ・デ・シーカといえば「ひまわり」。哀切のメロディが流れる中、広がるひまわりの大輪。もちろんそれはウクライナの大地に眠る多くの兵士の魂を象徴する。そして、愛し合いながら別れなければならない男と女。そうさせたのは、戦争である…。ヨーロッパ映画としては珍しいほど、観客に感情移入を求めた映画ではあった。

そして、フェリーニの「道」。単調とも言えるストーリーで全体は淡々としているが、著者が言うとおりこのラストシーンは「ヨーロッパ映画史上に輝く」のであり、「観客はすぐには立ち上がれなかったであろう」―。

アンジェイ・ワイダの「灰とダイヤモンド」も当然取り上げられている。

――ワイダの映画作りも、(略)検閲との闘いを強いられた。(略)自由にものを語れぬ共産主義体制の中で、彼は象徴的な映像に観客へのメッセージを託した。

いうまでもなく、このことが鮮明に表れたのが、共産党県幹部を殺害したテロリスト・マチェクが、ゴミにまみれて死んでいくシーンである。ああ、何が「ダイヤモンド」で何が「灰」だったのか。セリフではなく映像で、ワイダは「終戦が解放ではなく、さらなる抑圧の時代の始まり」であることを、すなわちポーランド国民の本音をスクリーンに映し出したのであった。

最後はアンゲロプロスの「旅芸人の記録」。

――巨匠はひたすらヨーロッパの辺境の歴史を綴った。けれども、一つの地域の特定の現実を深く掘り下げると、そこからは普遍性が立ち現われる。

この言葉に付加するものはなにもない。 


ヨーロッパを知る50の映画

ヨーロッパを知る50の映画

  • 作者: 狩野良規
  • 出版社/メーカー: 国書刊行会
  • 発売日: 2014/03/28
  • メディア: 単行本

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