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人間のおぞましい所業を暴く~濫読日記 [濫読日記]

人間のおぞましい所業を暴く~濫読日記


「プルトニウムファイル いま明かされる放射能人体実験の全貌
(アイリーン・ウェルサム著)

 

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「プルトニウムファイル」は翔泳社刊、2500円。初版第1刷は2013117日。著者アイリーン・ウェルサムは1951年ニューヨーク市生まれ。テキサス大オースチン校卒。ジャーナリスト協会公共部門賞、ジョン・ハンコック賞など受賞。

 













 著者は87年から94年までニューメキシコ州の夕刊紙「アルバカーキ・トリビューン」紙記者だった。ふとしたことでプルトニウム注射による人体実験の事実を知り、大半が闇の中だった実態を調査、報道した。当時のクリントン大統領も腰をあげ、放射能人体実験調査委員会をつくる。地方紙記者のペンが政権を動かしたのである。94年にピュリッツアー賞受賞。そのときの報道をもとにまとめたのが本書である。

  訳者の渡辺正・東京大名誉教授が末尾に記したリストによると、ロスアラモスなど国立研究所が中心になって行われた主な人体実験は次のようになる。

 患者18人へのプルトニウム注射(サンフランシスコなどの病院)▽妊婦829人に放射性の鉄投与(ヴァンダービルト大)▽施設の子ども74人に放射性物質投与(マサチューセッツ工科大)▽患者700人以上に全身照射(シンシナチ大、オークリッジほか)▽囚人131人の睾丸に放射線照射(オレゴン州など)▽数千人の兵士と風下住民の試験被曝(太平洋とネヴァダの核実験場など)

 おぞましいリストである。とりわけ最初の項目は、まさしく意図的な人体実験である。著者がこの問題に取り組んだきっかけもここにある。行われ始めたのは1945年4月。広島、長崎に原爆が投下される直前だ。

 著者はアルバカーキ・トリビューン紙に入社後間もなく、空軍の廃棄物処分場の浄化についてまとめた報告書をめくっていた。「放射能を持つ動物の死骸」という記述に目が止まる。これは何?事実を求めて、数十年前の資料をめくる。「ほこりっぽいごわごわの文書」の一つの脚注が目を引いた。「プルトニウム人体実験」―。これは何?

 最初の報道は93年。3回連載だった。読者からの電話は一本もなかったという。しかし、翌年発足したクリントン政権のエネルギー省長官ヘイゼル・オリアリーがプルトニウム人体実験を非難。風向きが変わる。彼女はこう言ったという。「ぞっとしました。たいへんショックです」

 著作は、人類が初めて手にした物質プルトニウムの開発史と、その影響を確かめるための人体実験の歴史の2本立てで構成されている。「人体実験」が具体的に日程に上ったのは1944年8月のことだった。オッペンハイマーにメモが送られる。実験は3段階で、最後は「人体のプルトニウム排泄速度を調べるトレーサー実験」。

 こうしてサンフランシスコ、シカゴ、ロチェスターの病院で人体実験の「獲物」を探す作業が始まる。もちろん、実験の趣旨が事前に説明されることなどなかった。注射する量も、当初の5㍃㌘から50㍃㌘、95㍃㌘と増えていく。こうして患者たちは、処置の中身を一切知らされないまま、残る人生をプルトニウムを抱えたまま過ごしたのである。しかも、実験に携わったものたちの所業のほとんどはその後数十年、歴史に闇に包まれたままだった。

 ジャーナリズムとは何かを考える上でも貴重な一冊である。本書は2000年夏にいったん上下2巻として刊行され、増刷されずにいたが福島原発事故をを契機に再び注目を浴び、20131月に1巻にまとめられて再刊された。

プルトニウムファイル   いま明かされる放射能人体実験の全貌

プルトニウムファイル   いま明かされる放射能人体実験の全貌

  • 作者: アイリーン・ウェルサム
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2013/01/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)




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