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戦後日本の「誤表示」問題を解く [濫読日記]

戦後日本の「誤表示」問題を解く~濫読日記

「永続敗戦論 戦後日本の核心」(白井聡著)

 

永続敗戦論_001.JPG 「永続敗戦論 戦後日本の核心」は太田出版刊行。1700円(税別)。初版第1刷は2013年3月27日。白井聡は1977年東京生まれ。早稲田大卒業後、一橋大大学院修了。博士(社会学)。文化学園大助教。著書に「未完のレーニン―『力』の思想を読む」(講談社選書メチエ、2007年)など。












    昨今、世情をにぎわせたものに、ホテルやレストランのメニュー偽装問題がある。「偽装」といってしまえば潔いのだが、謝罪会見では「誤表示」なる珍妙な日本語が発明された。これだけ同じ手口と同じ言い訳を聞かされれば、これが業界の常識だったんだな、と思わざるを得ない。だが待てよ。この光景、既視感がある。ドメスチックな常識が、外界とはまるでかけ離れていて、もちろんそれを認識しているにも関わらず、修正機能が働かない…。

    ◇

 たしかに、3.11によって「戦後」という言葉にひそむパンドラの箱は開けられたのである。そのことを、白井聡は丸山真男の「無責任の体系」というキーワードによって解き明かす。今日の原発を取り巻く悲惨な状況は、原子力ムラを頂点とする無責任の体系によって引き起こされた。そして、その結果である原発事故もまた、無責任の体系によって「収束」という名の引き延ばしがなされようとしている。

 ――<無責任の体系>が引き起こした事故を<無責任の体系>によって解決しうる、という空しいばかりの危険な夢想がここにはある。

 白井はこう指摘する。そしてこの言葉は、3.118.15を縦横に結びつける。丸山が「体制そのもののデカダンス」と呼んだものに「恐ろしいまでの現実感」を、白井は認識するのである。そして、この二つの視座から「戦後」をみながら、著者は「民主主義」と「平和」にひそむ虚構性を論理的に暴きだす。「民主主義・平和・繁栄」という物語の礎石としてある対米従属。我々はなぜこのような「戦後」を見誤ってきたか。
この問いに対する解答として、著者は「敗戦という事実の隠ぺい」をあげる。実行されなかった本土決戦、賠償問題への寛大な対応、限定された戦争責任追及、驚異的な経済成長、沖縄の要塞化、そして「国体の護持」―。「日本は敗戦した」という事実は動かせない。動かすためにはもう一度、戦争するしかない。だとすれば、「敗戦」という事実を覆い隠す。ここから、戦後日本の二面性が生じるのである。戦後の政権は、国内的には「敗戦」を否認し、戦後処理への不満を並べ(「憲法押し付け論」が最たるもの)、一方で対米従属を貫く。こうした「永続敗戦」こそ、戦後レジームの基本構造であると、著者は指摘するのである。

 この論を全面的に支持したい。ここから見えてくるものは何か。日本の「平和と繁栄」は、朝鮮戦争とベトナム戦争を礎として築き上げられた虚構であること、アメリカの核の傘によって守られながら「非核三原則」をいう政権の欺瞞であること。これらが明快に解き明かされる。むろん、この視点から領土問題への対応も批判されるのだが、この件はここでは省く。

 しかし、3.11を契機として「戦後」の本質が見えてしまった以上、「戦後」という名の「永続敗戦」を希求する勢力がいるにせよ、「戦後」の強制リセットの時期は確実に迫っている。戦後という擬制は、歴史的内実という真実に直面せざるを得ないのである。しかし、この欺瞞は取り払われるべきである、という根本的な問いは、なされてはこなかった。それゆえに「安保と平和」という問題は、思考停止の中で忌避され、放置されて今日に至ったのではないか。そうした状況の中で永続敗戦の構造が永久化した、というのが著者の認識である。

 著者はこうした観点から、広島・長崎への原爆投下もまた、本土決戦と革命の可能性の否定―国体護持という文脈上で語られるべきだという。その意味では、日米の共犯関係は広島・長崎において既に起動していた、という。刺激的で興味深い論点だが、この点に関しては少し留保したい気がする。

 では、「戦後」の本質を見た今、われわれは何をなすべきか。戦後の虚構性を排除し、われわれが真に護るべきものは何か、を考えることであろう。そのうえで「戦後レジーム」を権力の側からでなく、我々の側から変えていく。そのとき、あの「怪物的機械」も「国体」も、止まる時が来るかもしれない。この点は、著者と一致する。

    ◇

 断るまでもないだろう。レストランメニューの誤表示問題は、戦後日本の「平和と民主主義」国家というメニューの誤表示問題でもあるのだ。もちろん、その解決のためには①メニューを内容に合わせて書き換える②メニューに合わせてレシピを変える―という選択が必要なことはいうまでもない。

永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)永続敗戦論――戦後日本の核心 (atプラス叢書04)
  • 作者: 白井 聡
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2013/03/08
  • メディア: 単行本


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