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ハラハラドキドキ、ああ映画の「定式」~「アルゴ」 [映画時評]

ハラハラドキドキ、ああ映画の「定式」~「アルゴ」
 


 極秘救出作戦に向かう米軍用ヘリがテヘラン手前の砂漠で不時着するという失態を演じた米大使館占拠事件。ホメイニ師をかついで起きた宗教革命後のイランで、パーレビ元国王の米国亡命に怒り身柄の引き渡しを求めた大衆が大使館を襲撃、1979年から444日にわたり、館内の52人が人質になった。

 ソマリアで1993年に起きた、これもまた米国の失態である地上ゲリラによる米軍用ヘリ撃墜事件。この事件の詳細をノンフィクション「ブラックホークダウン」にまとめたマーク・ボウデンには、やはり緻密な取材によって大使館占拠事件の全貌を著した「ホメイニ師の賓客」(2007年)がある。事件の詳細を描いたものとしては、この書に勝るものはない。

 しかし、この書では、大使館占拠直前にカナダ大使館に避難し、その後出国した6人のことは、わずかに末尾リストで「大使館を脱出し、カナダ大使館とスウェーデン大使館に潜伏したのちイランを出国した6名」とあるだけである。

 この6人の出国の経緯に奇想天外な作戦があったことを、この映画「アルゴ」で知った。ベン・アフレックが監督・製作・主演という入れ込みようである。そうだろう。これだけの素材が「事実」として転がっていれば、飛びつくのも無理はない。作戦は実行後18年間、極秘扱いにされた。この興味深いストーリーにマーク・ボウデンが触れなかったのは、このことが絡んでいるのかもしれない。

 さてこの映画、素材は一級であるからほとんど小細工を弄する必要がない。冒頭から米大使館に押し寄せるイランの群衆を描き、緊迫感を高める。極秘書類を処分する大使館員。発砲できない海兵隊員。一発でも撃てば、米国とイランの戦争が始まるからだ。そして52人が人質に。一方、カナダ大使館にひそむ6人も、命は風前のともしびである。イラン革命防衛隊が、しらみつぶしに「アメリカ人」を探しているからだ。そこで、奇想天外な救出作戦が実行される。SF映画のロケハンをテヘラン市内ででっちあげる。そのスタッフに、6人を偽装させようというのである。反米デモが交錯し、市場の喧騒にまみれる市内を、顔をさらしたままの6人を歩かせる。緊迫感がピークに達する瞬間だ。

 突然、作戦中止を命じるホワイトハウス。大使館員がシュレッダーにかけた大量の資料を人海戦術で復元させ、6人がアメリカ大使館員であることに気づく革命防衛隊。あとはハラハラドキドキ、見てのお楽しみというものだ。映画は大規模な紙芝居であり、観客を興奮させれば勝ち、という定式があるとすれば、その定式にもっとも当てはまるのがこの映画であろう。ちなみに「定式」をアルゴリズムという。アルゴとはアルゴリズム―すなわち映画の「定式」―のひそみなのか、と思わせるぐらいの単純明快、かつ興奮させる映画である。ただ、イランとしてはこの映画に言い分があるだろう。

 

 アルゴ1.jpg


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