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流砂のごとき民意はどこへ~2012衆院選マクロ的総括 [社会時評]

流砂のごとき民意はどこへ~2012衆院選マクロ的総括 


 2012衆院選は、終わってみれば自公325議席。風も吹かないのに、議席総数の3分の2を軽く超してしまった。小選挙区制度は死に票が多く、得票数と議席数との間にバイアスがかかると言われてきたが、これほどとは思わなかった、というのが大方の感想であろう。どうしてこんなことになったのか。そして、選挙結果に隠された民意の行方をどう読むか。それはどこへ向かうと読むべきなのか。

 □■投票に行かなかった1000万人

 今回の衆院選の特徴を挙げてみよう。①投票率は前回より9.96%下げ小選挙区59.32%、比例代表59.31%であった。これは衆院選としては戦後最低であった②得票数と議席数のかい離が目立った。自民は43%の得票で79%の議席を取り、前回47.4%で73.7%の議席を取った民主よりも極端だった③民主は前回選挙より2000万票減らした。この票はどこに消えたか。あるいはどこに回ったか④各党の増減を見ると、第3極は増やしたがその他の政党は軒並み票を減らした。この意味は⑤第3極の中で未来は予想されたほど伸びなかった。また、「脱原発」も票に結び付かなかった。それはなぜか。

 まず投票率。小選挙区比例代表並立制導入の1996年に戦後最低(小59.65%、比59.62%)を記録して以来、投票率は低迷している。例外は、2005年の小泉郵政解散(小、比とも67.5%)と民主が政権を取った2009年(小69.28.69.27%)だった。郵政解散は小泉純一郎という天才的な詐術師によって国民が一時的な熱病に冒された選挙と見るべきで、そうすると政権交代の期待がかからない限り、小選挙区制の投票率はあがらないと考えたほうがいい。今回は「政権交代」には違いないが、自民再登板である。そのことへの幻滅感は有権者に強かったのではないか。それがマイナス10%という結果になった。これは、票数で言えば約1000万票である。極めて単純化して言えば、民主が減らした2000万票のうち半分はこの票だと仮定することもできる。

 得票と議席のかい離について。小選挙区は投票数の半分近くを取らないと確実には勝てない制度である。今回の選挙では民主があらかじめ忌避されたため、自民だけが飛びぬけた存在になった。こうなると、小政党が小選挙区を取るのは至難の技になる。投票率が下がったことも自公には幸いした。前回は民主が小選挙区、比例代表とも40%以上の票を取っており、あきらかに民主への期待が風になっていることが見て取れた。しかし、今回の選挙では自民は小選挙区こそ40%台の得票だが、比例は27.6%である。投票率低下を受けて、票数で見れば比例は前回より200万票以上減らしている。小選挙区は、他に選択肢がないため「仕方なく」自民に入れたものの、比例では他の党に入れた、という投票行動が見えてくる。

 

 □■2000万票が政権を決める

 2009年に民主に吹いた風のうち、約2000万票はどこに行ったか。ここでは③と④を合わせて分析する。前述したように、仮にこの半分が「投票に行かなかった」票だとしよう。すると、後の1000万票は民主以外のどこかへ回ったはずである。しかし、他党の票の増減を見てみると、自公も、比例区では計312万票減らしている。小選挙区も(驚くべきことに!)自民の得票数は166万票減である。社民、共産も計284万票の減である。とすると、後は「第3極」と称する新党に回ったと考えるしかない。そこでこの3党の合計得票数を見ると2093万票である(注=ここでは特に断らない限り比例代表の得票数を用いている。理由は小選挙区の得票数は個別の選挙区事情が絡むためである)。「みんな」は、前回300万票という実績があるので、3党で1793万票増えたことになる。つまり、自公民をはじめ既成政党はすべて票を減らし、維新、みんな、未来の3党だけが票を伸ばした(あるいは新たに獲得した)という構図が見えてくる。

 有権者は、「入れたい政党がないので投票に行かない」か、維新、みんな、未来に期待票を入れたことが分かる。しかし、ここでの推論は主に比例代表のデータに基づいているのだが、あらかじめ断っておくと、このデータにもバイアスがかかっていると考えた方がいい。それはこういうことだ。カギは、前述した小選挙区と比例の間の自民の得票率のギャップ(小43、比27.6%)にある。維新とみんなは逆に、小選挙区に比べ比例の得票率が2倍近くになっている。この二つを合わせて読めば「小選挙区は自民、比例は第3極」とした投票行動が透けてくる。軸足をどちらかに置くにはためらいがあり、バランスを取ろうとした有権者意識が数字に表れている。そこを換算しないと、本当の政党支持の分布図は見えてこないだろう。

 極めてマクロ的に言えば、今回の選挙では民主が減らした約2000万票はそのまま自民・公明へと回らず、ほとんどが「第3極」の3党に流れた。社民、共産も票を増やすことはできず、むしろ減らした。しかし、小選挙区では、ほかに入れる候補がいないのでとりあえず自民に入れた有権者が多かった。2000万票が、流砂のように漂いながら行き先を求めているのである。ここを正確に、動態モデルとして把握する必要がある。そして今回、自民が小選挙区でとった票は2564万。前回民主がとったのは2730万である。間違いなく、この2000万票が政権の行方を握っている。

 

 □■現制度では「緑の党」は無理

 未来が伸びなかった背景について。今回、あらためて明らかになったのは、今の選挙制度では単一イシューではなかなか勝てないということだ。未来はドイツ緑の党にも擬することができたはずだが、現実にはそうならなかった。理由の一つとして、選挙制度の違いも挙げられる。ドイツは小選挙区比例代表併用制で、日本と名称は似ているが、中身はむしろ比例代表制である。比例代表に軸足を置くか中選挙区制であれば、シングルイシューで政党が伸長することは可能だろう。しかし、小選挙区では「総合デパート」方式の政党が絶対有利である。争点も、身近なものほど有権者に訴えやすい。かつて「外交・安保は票にならない」と言われたが、絶対多数を必要とする小選挙区では、そうした傾向がもっと顕著になる。多くの有権者が任期4年(もう満期まで選挙はない)
の議員に望むのは、あくまで当面の景気対策、雇用対策であって、数10年先を見通した原発処理ではないのである。選挙戦を通じて「沖縄」が全く語られることがなかったのも、同じ理由によるだろう。

 

 □■民主リベラルは再構築可能か

 現在の小選挙区比例代表並立制は、必然的に2大政党プラス若干の小政党という枠組みに向かう。そうでないと、自民政権がガリバーとなって永久に続くことになる。そうならないためには、非自民の政党が統合して、政権を担える新たな党をもう一度作ることである。そのときに、小選挙区で22%あまりの票を取った民主を核にすることはもちろん想定しうるが、別のシミュレーションもあるだろう。

 歴史を振り返ってみる。宮沢喜一内閣の不信任が成立し、いわゆる55年体制が終わったのが1993年。細川護煕首相による非自民政権を経て翌年自社さ政権が発足し、96年の小選挙区比例代表並立制導入によって社会党は消滅した。この時を起点に政党の離合集散が続き、民主党が政権を取ったのが2009年である。この間、10年余を費やしている。

 自社さ政権で首相だった村山富市氏が最近出した「回顧録」(岩波書店、2012年)で、新党をめぐる党内論議の分水嶺は民主リベラルか社民主義かだった、と語っている。これは再び一つの分水嶺として議論されるべきなのか。それとも民主リベラル党として再構築されるべきなのか。維新をはじめとする「第3極」は自民への対抗勢力になり得るのか。こうして見ると、今回の選挙で成立する(であろう)自公政権は、あくまで「踊り場」政権であることが分かる。


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