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改良型中選挙区しかない~破綻した小選挙区制 [社会時評]

改良型中選挙区しかない~破綻した小選挙区制


 A 2012年の衆院選結果は問題だという声が強い。何が問題なのかから、整理してみよう。

 B 得票率43%の党が79%の議席を占有するというのは、いくらなんでもギャップが大きすぎる。だれも望んではいないのに、これだけバイアスがかかると、投票した方としてはどうなってるの?と思う。それに、今回は原発が大きな争点になると思われたが、ほとんど票にならなかった。ここにも制度的な欠陥がある。

 C それぞれの選挙区で1番にならないと当選しないというのは、かなりしんどい。中選挙区のことを思い返すと、それぞれの地区で多数ではないが一定の率で存在する声はあった。例えばそれは社会党だったが、小選挙区が実施されると社会党は消滅してしまった。選挙区の半分とまでいかなくとも3分の1、4分の1の声をすくいあげることは必要ではないか。

□■制度が先走った結果

 B どんな選挙制度にもメリットとデメリットがある。小選挙区のデメリットは、投票結果にバイアスがかかりすぎること。冷戦が終わって55年体制が幕を閉じ、政権交代可能な制度ということで小選挙区制は検討された。メリットとしては、政権交代を頻繁にすることで権力の腐敗を防ぎ、風通しを良くすること。実は、民主党政権で論議があったマニフェストもこの制度と一体のものだ。二つの政党が政権構想を明らかにし、国民がどちらかを選択するというのがこの制度の利点を生かす道だ。しかし、マニフェストを含め民主党の実験が失敗に終わったことで、小選挙区制のデメリットばかりが浮き彫りになった。

 A もともと2大政党制が定着していなかった日本で、2大政党制でないとメリットが出せない小選挙区制を採用したことにも問題はないか。制度を先につくって、それに合う政党をあとから人工的につくった結果が、あの民主党の体たらくだった。

 C 最大多数だけが当選するとなると、最も多数に支持される政策だけが残ってしまう。福島や沖縄は重大な政策課題だが、全国民的に言えばそれより景気・雇用対策が重要だということになって、本当は避けて通れないはずの諸課題が置き去りになる。ドイツにはある「緑の党」が日本にはできず、未来の党があれほどの惨状に終わったのも、この制度に起因すると思う。「オリーブの木」構想が当初あったが、楽観的な見通しを持てなかったのは、この構想が成り立ったイタリアが比例代表制だったこと。小選挙区でオリーブの木は育たない。

□■中選挙区か比例代表か

 A ではどうするか。大きくは二つ道がある。元に戻すか、新しい方法を検討するか。元に戻すとすれば中選挙区制だ。新しい方法とは、おそらく比例代表制かそのバリエーションだろう。

 B 中選挙区を変えなければ、という議論が起こった契機は「政治にカネがかかりすぎる」ということだった。一つの党から複数立てば政策に違いが出ないから選挙民へのサービスが必要になる。利益誘導も行われる。その資金調達のため、永田町では派閥ができる。そこで囲い込んだ議員の資金とポストの面倒をみる。しかし、小選挙区になってもカネはやっぱりかかる。派閥の影響力は弱まったが。

 C そういうことで言えば、例えば定数をかつての最大5ないし6から、3または4に引き下げるという方法はないか。また一つの選挙区で一つの党から複数立候補はできないという制限を設けては。

 A そうすると、無所属で出て後から政党に入るという抜け道はあるけどね。でも一つの考え方だ。世論としても、新制度を目指すより旧制度の改良型のほうが抵抗感がなく受け入れやすい。もう一つの方向である比例代表はどうだろう。

□■非現実的な完全比例代表


 

 B 完全比例代表は一見、民意を正確に反映するように見えるが私は懐疑的だ。実際に、100%比例代表制をとっている国はそんなにはないと思う。その理由は三つある。一つは、人名でなく政党名だけ書く投票行動が国民に受けいれられるだろうか。具体的には全国区、ブロックごとで立候補者と名簿順位を決め、有権者は「A党」「B党」と投票する。やはり選挙は「人を選ぶ」という要素が不可欠なのではないか。二つ目は、制限条項を設けるとしても小政党が乱立するだろう。そうなると有権者はますます混乱し、政治的な関心も失う。三つ目は、その結果、第1党の得票率はほとんどの場合過半数を下回る。得票率と議席率はほぼ同じだから、議席占有率2割か3割の党が政権を担うことになる。当然連立政権になる。組み合わせは国民のあずかり知らぬところで検討される。つまり議会の権謀術数が政治の行方を決める。民意に忠実な制度が、もっとも民意から遠い結果を生むことになりかねない。

 C そこで多くの国が採用しているのが小選挙区との組み合わせだ。日本も一応、小選挙区と比例代表を並立という形で組み合わせている。ほかに連用制、併用制というのがある。大まかに言えば、並立制は、小選挙区と比例代表の議席配分にもよるが、小選挙区がベースだ。これに対して併用制は比例代表がベースといえよう。連用制はその中間だ。

 A といってもよく分からない。どう説明する?

 B 並立制はそれぞれの選挙を別々に行う。重複立候補というのはあるが、基本的に得票結果は交わらない。これに対して併用制はまず小選挙区の当選者をそれぞれの選挙区にあてはめ、さらに比例代表の結果で議席配分を決め、小選挙区当選者より比例代表の獲得議席数が多ければ、その分充当していく。小選挙区の当選者が比例の獲得議席数より多い場合はそのまま残す。そうすると、多くの場合定員を上回る議員が誕生する。1票の格差も選挙結果で変わる。この二つが欠点だ。長所は、「人を選ぶ」選挙だが比例代表に近い議席配分になることだ。理論的には1票制も2票制も成り立つ。ドイツがこの制度をとっている。

 C 並立制の欠点を補う制度として連用制がある。かつて政治改革論議が盛んだったころ民間政治臨調(亀井正夫会長)が提唱した。議員定数が超過しないという長所があるが、運用はかなり難しい。理論的には最も欠点が少ないが、難解なので実現しなかった。小選挙区と比例代表の2票制で投票し、まず小選挙区の当選者を決める。次に比例の得票数を小選挙区当選者+1で割り算し、ドント式で配分していく。こうすると、小選挙区で当選できなかった小政党に有利な議席配分になる。

 A やはりよく分からない…。

 C あとはウィキペディアかなにかで調べてください。これ以上の分かりやすい説明は、私では手に負えません。しかし、理論的にはこの方式が最も穴がないと思われます。難解な制度なので、大きな国では採用していないと思う。

□■だれが改革を主導する?


 

 A 結局、完全比例代表は分かりやすいが現実には無理だろう。しかし、小選挙区がダメだから比例との連用制か併用制で、というのも国民的理解が得られるかどうか。すると、中選挙区で定数3あたりを上限とする案がもっとも現実的なのでは。

 B 問題は、選挙制度の改革をだれが言い出すかだ。小選挙区制度はその時々の勝者に「甘い汁を吸わせる」制度なわけだから、政権与党は絶対に言いださない。たとえば今、自民党が小選挙区制度を比例代表をベースにした制度に変えようと言いだすだろうか。次回選挙で自民党以外の党が政権を握ったとしても、同じことが起きる。

 C しかし、選挙制度を変えないと日本はダメになる。

 A たしかに。それに、原発や沖縄がテーマ化しない今の政治状況を見て思うのだが、もはや「お任せ民主主義」では限界なのではないか。これほどソーシャルメディアが発達した時代に、もっと政治の直接性を際立たせる方法はないのだろうか。

 B 自民党の安倍晋三総裁がインターネットを使った選挙運動の解禁を表明した。

 C ほとんど本質に関係ない、人気取りの政策だと思う。

 A そうだね。とりあえずきょうの結論は「改良型中選挙区に戻してみよう」かな。


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