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現下の政治の源流を見直す作業の必要性 [濫読日記]

現下の政治の源流を見直す作業の必要性


「村山富市回顧録」(薬師寺克行編)

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「村山富市回顧録」は岩波書店刊。2700円(税別)。初版第1刷は2012523日。編者の薬師寺克行は1955年岡山県生まれ。東大文学部から朝日新聞社。主に政治部を歩き、村山内閣当時は官邸キャップ。政治部長、編集委員などを経て2011年東洋大社会学部教授。専門は現代政治論、政治過程論。

 












 いったんは2大政党制に収れんしたかに見えた日本の政治は、1116日衆院解散、1216日総選挙という政治日程の中で小政党乱立=星雲状態へと突入した。この状況を20年前の1993年6月、自民党長期政権にピリオドを打った宮沢喜一内閣の不信任成立直後になぞらえる見方が広がりつつある。

 当時の時代背景についておさらいをしてみよう。198912月に米ソ首脳が冷戦終結を宣言する。直後に湾岸戦争が起き、宮沢内閣は自衛隊派遣を視野に入れたPKO法成立をめぐりほんろうされる。このころ、佐川急便事件の処理をめぐって自民党最大派閥の竹下派が分裂。派を出た小沢一郎氏らが賛成に回って内閣不信任が成立、55年体制が事実上終焉する。新党さきがけ、新生党が結成され、総選挙の結果、細川護煕・非自民政権が誕生。しかし翌年には政権が瓦解、自民・社会・さきがけの村山富市政権に代わる。96年、小選挙区比例代表並立制による総選挙が実施されると、社会党から党名変更した社民党は惨敗。自自公政権、自公政権を経て2009年に民主党による本格的な政権交代が実現する。

 これが最近20年の流れである。小選挙区比例代表並立制は2大政党プラス若干の小政党という枠組みを生みだすが、もし民主対自民という対抗軸が政治の現状に無効だとみるのなら、その枠組みの源流ともいうべき1994年前後を見直してみることには意味があるだろう。その際必読とも言うべき「村山富市回顧録」が今年5月、「野中広務回顧録」が6月に相次ぎ刊行された。

 特に「村山回顧録」を読んで関心を引いたことが二つある。社会党は政権のトップにつきながら、骨格とも言うべき「日米安保反対」と「自衛隊違憲」を簡単に捨て去ったのだが、そのプロセスはどのようなものだったか。もう一つは自社連立というアクロバティックな政権運営を引き受けた村山氏の胸の内である。

 最初のテーマについて。村山氏は当時の党内議論の方向について、新党問題が大きな比重を占めていたと語る。社民を軸にする村山氏らと、リベラルを軸にする久保亘、山花貞夫両氏ら2大潮流のせめぎ合いである。「新党」が党内議論の大きな比重を占めたため、政策に関する議論はほとんどなかったという。以下は村山氏の証言。

 「新党問題ばかりだった。政権のことは他人事みたいに思っていたんかなあ。(略)政権を握っているのだから、社会党はこういう機会を利用して党勢を拡大するとか、党の政策を実現するとか、いろんなやり方があると思っていた。しかし、当時の社会党議員らは(略)『野党時代の方がよかった』と言っていたなあ」

 こうして安保追認、自衛隊違憲が打ち出される。「僕は総理という立場は孤独だなあと感じた。(略)自分の党は政権を支える与党なんだからもう少しいろんな役割を果たしてくれてもよかったと思う」と、村山氏は語る。しかし、政権運営に忙殺され党を離れていた村山氏の社民結集論は新党の方向性とはならず、久保氏や山花氏のリベラル論が重視されていき、今日の政治フレームの源流となる。

 もう一つの、自社さ政権・村山首相の胸の内。「はじめに」で自身こう書いている。

 「本当に不思議な人生だったと思う。『巡り合わせの人生』。(略)まさに自然に廻ってくるくる運命に背中を押されて歩いてきた(歩かされてきた)人生だった」

 村山氏にとって自社さ政権のトップは、ある意味で「はまり役」だったかもしれない。村山氏は市議、県議を経て衆院議員になるが、一貫して彼は「運命に背中を押されて歩かされてきた」と語る。だから政権をめぐる去就についても、極めて淡々としている。

 このとき、村山政権を支える側に回った野中広務氏の回顧録から。

 「村山さんは、意外に円満な人柄で、人の話によく耳を傾け、ぼっそりと物を言う。非常に訓練された総理だった」

 ここには、支えられることを「運命」とした政治家と、支えることを「運命」とした政治家の一瞬の交錯があるのだが、もちろんそれだけではない。いずれにしても、今日の政治の突破口を考える上で、政治の裏面を知る二人の証言が極めて貴重であることは間違いない。 


村山富市回顧録

村山富市回顧録

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2012/05/24
  • メディア: 単行本



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