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歴史を引きずるから「領土」は重い~濫読日記 [濫読日記]

歴史を引きずるから「領土」は重い~濫読日記


「日本の国境問題」(孫崎享著)

「歴史でたどる領土問題の真実」(保阪正康著)

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 「日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土」はちくま新書。760円(税別)。初版第1刷は2011年5月10日。孫崎享氏の経歴は「戦後史の正体」の項参照。「歴史でたどる領土問題の真実 中韓露にどこまで言えるのか」は朝日新聞出版刊。740円(税別)。初版第1刷は2011830日。保阪正康氏は1939年北海道生まれ。ノンフィクション作家。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。昭和史研究で菊池寛賞。「田中角栄の昭和」(朝日新書)など。













  「戦後史の正体」を著した孫崎氏は、知られているように外務官僚出身である。一方の保阪氏は昭和史をフィールドとするノンフィクション作家。歩んだ道のりの違いが、同じ「領土」をテーマとしながら視点や分析手法の差異となって表れている。

 興味深いのはどちらも導入部分で、独仏国境にあるアルザス・ロレーヌ地方を取り上げている点である。しかし、その扱い方はまるで違っている。孫崎氏は、ドイツが第2次大戦後、アルザス・ロレーヌの欧州化を選択したことを挙げ、領土問題の向かうべき一つの方向だとしている。一方の保阪氏は、人工的な国境が流血を生んできた歴史を指摘。第1次大戦で失った領土の回復をもくろんだヒトラーの野望が第2次大戦を引き起こしたとする。

 未来志向と過去への執着と単純に言ってしまえない、2人の著者の資質の違いがある。時間軸を縦に取った場合、孫崎氏の発想と手法は水平的であり保阪氏は垂直的であると言ってもいいかもしれない。むろん、孫崎氏が歴史的経緯をまったく考慮していないなどと言っているわけではない。

 日本における領土問題は、順不同で言えば①尖閣列島②竹島③北方領土―である。それらは一つの原則で対応できない。それぞれが微妙に違っているからである。

 ・尖閣諸島

 国際法上の論点で言えば、日本が1895年に閣議決定によって尖閣諸島を領土編入したことをどう見るか、である。日本はその前年から清国と戦争を始め、翌年に台湾及び周辺の島嶼、満州などの割譲を清国に迫り、下関条約を結ばせている。さらに、中国の主張によれば15世紀ごろから尖閣諸島と台湾の間で行き来があったという。この中国の主張が正しいとしても無主の先占を国家が宣言しないと領土とはならない。この点がどうであったか。そして最大の問題は、下関「不平等」条約の対象に尖閣は入っているかどうか、である。中国は当然のことながら、尖閣は下関条約によって奪われた領土であると主張する。尖閣問題について中国外相が9月28日、国連演説で日本を非難し「日清戦争末期に日本が中国から釣魚島を盗んだ歴史的事実は変えられない」としたのは、このためである。ちなみに、よく知られていることだが「盗んだ」という表現は1943年のカイロ宣言によっている。日本の戦後処理を話し合ったこの会議にはルーズベルト、チャーチル、蒋介石が参加している。

 言いたいのは、法律論で割り切れない問題がこの尖閣問題には絡んでいるということである。そこに日本人はほとんど関心を払っていない。「戦争」、もっといえば、日本の「侵略」行為がアジアの周辺国に落とす影の濃さをどこまで計測するかであろう。ちなみに、1895年から1970年まで中国が、日本の尖閣領有について一度も抗議も異議も行っていない、とする赤旗の主張は、孫崎氏もいうように理解できない(最近、国会の代表質問でも日本共産党は同じ指摘を繰り返している)。

 ・竹島

 竹島はもともと「リアンクール島」と呼ばれていた。フランスの捕鯨船がこの島を最初に発見したためだ。日本政府は19051月に領土編入を閣議決定、島根県が翌月に告示した、と主張している。この前後のアジアの歴史を見てみると、1904年に日本はロシアとの戦争を始め、1910年に朝鮮併合を行っている。日露戦争が、ロシアの南下政策をにらみ朝鮮半島という戦略的要衝をめぐる争いであったと見れば、1905年の竹島併合は日本の侵略行為の一連の動きの一つであったというのが韓国側の主張である。ここでも日本の「侵略」が一つのネックになっている。

 ・北方4島

  詳細を省けば、この問題は日本の無条件降伏後に戦争を仕掛けた旧ソ連の行為をどう見るかである。連合国は、第2次大戦の終戦処理の過程で「領土的野心は持たない」ことを共通の理念としているが、この時のソ連の行為は「領土的野心」にあたらないのか。そのうえで戦後の領土的枠組みを決定づけたサンフランシスコ条約に当時のソ連は加わっていない。そのことが、問題をより複雑にしている。

 


 つまり、いずれの領土問題も、かつての「戦争」の影をいまだに引きずっているのである。その影の濃さが、問題の糸をさらに複雑に絡み合わせている。この点に関する視線は、孫崎氏がややドライであり、保阪氏はややウェットであるという言い方もできる。過去にまつわる「情」の問題を乗り越えて「領土」を解決する度量と冷静さが関係国にあるか。日本はその点で「無知」「無関心」であると思えてならない。

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

  • 作者: 孫崎 享
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/05/11
  • メディア: 単行本
歴史でたどる領土問題の真実 中韓露にどこまで言えるのか (朝日新書)

歴史でたどる領土問題の真実 中韓露にどこまで言えるのか (朝日新書)

  • 作者: 保阪 正康
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2011/08/10
  • メディア: 新書


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