それにしても闇の深さよ~映画「ブラック・ブレッド」 [映画時評]
それにしても闇の深さよ~映画「ブラック・ブレッド」
――それは1936年12月下旬のことだった。(略)労働者階級が権力を握っている町に来たのは、ぼくにはこれが初めてだった。ほとんどすべてのビルディングが、労働者によって占拠され、その窓からは赤旗が、アナーキストの赤と黒の旗が垂れていた。(ジョージ・オーウェル「カタロニア讃歌」橋口稔訳)
映画「ブラック・ブレッド」はスペイン市民戦争が終わったころ、すなわち1940年ごろのカタルーニャ地方を舞台としている。共和派がカタルーニャを支配し、カタルーニャ語は以後40年間、使うことを禁止された。市民の側に立って戦った者たちは厳しく弾圧された。映画の原題「Pa Negre」はカタルーニャ語で、そのまま「黒いパン」のことである。黒いパン―精製されていないそのパンは、貧者の食べ物を指している。
不思議な味わいの作品である。ミステリーといえば言えるが、それだけではない。事件の謎ときはひとりの少年の目を通して進み、その背後に―映画の原題に込められたモチーフである―貧しいものと富める者の構図が透ける。時代背景からすると政治的な色彩が推測されるが、その点は希薄である。
森の中で、馬車を曳く一人の男が惨殺される。遺体は、荷台にいた息子とともに馬車ごと絶壁から落とされ、その光景を11歳の少年アンドレウが目撃する。彼は崖下で瀕死の少年から「ピトルリウア」という謎めいた言葉を耳にする。「ピトルリウア」とは…。おとなしい小鳥。もう一つの意味は羽を持ち洞窟に住む怪物。なぜ死の間際に少年はこんな言葉を口にしたのか。
アンドレウの父ファリオルは、市民戦争後は社会主義者として村人から避けられ、一家は貧困にあえいでいる。そんなとき、馬車の父子の殺人容疑をかけられ、姿を隠す。母は工場に働きに出、アンドレウは祖母のもとに預けられる。ある日、祖母の家に警察が踏み込み、屋根裏に隠れていたファリオルを逮捕する。
なぜ、父ファリオルは殺人容疑で逮捕されたのか。「ピトルリア」は事件とどう関係するのか。アンドレウは、市民戦争で左手を失い、妙に大人びた雰囲気の従妹ヌリアと謎解きを始める。そして、森で惨殺された男ディオニスの妻から、アンドレウは衝撃的な事実を知らされる。ファリオルとディオニスは、洞窟で起こったある事件の共犯者だというのだ。
ファリオルは死刑を執行される。死の直前、アンドレウは父から牧場主マヌベンス夫人への手紙を託される。マヌベンス夫人から数日後、学費援助の申し出があったことを、アンドレウは知る。ファリオルとマヌベンス夫人の関係とは―。
少年は、大人の社会の闇の部分を少しずつ知っていく。そのうえで「自分の道は自分で決める」と宣言して学費援助を受け、エリート校へと進学したアンドレウは、ふっきれた表情で学校に通う。彼もまた「大人の社会」に仲間入りをしたのである。
この映画の核心部分は謎ときの面白さ、ではないと思う。村人たちにとって「謎」などもともとなかったのだ。少年が、大人たちの隠していたものを目撃しただけなのだ。アンドレウを演じたフランセス・クルメの眼差しがとても印象的である。それにしても、スペイン市民戦争後のカタルーニャを社会的な背景としながら描かれた、貧者と富者の間に横たわる闇と恨みの深さよ。
映画『Head In The Clouds』のメイキングで、主演のスチュアート・タウンゼントが役造りの為に、脚本同様に読み込んだ本とういことで、ジョージ・オーウェルの『カタロニア讃歌』を上げていました。
「共和派がカタルーニャを支配し、カタルーニャ語は以後40年間、使うことを禁止された。」
当時の様子を理解するにはとてもよい映画のようですね。「ブラック・ブレッド」も是非、見てみます。ブログでのご紹介ありがとうございます。
by ETCマンツーマン英会話 (2014-01-08 14:59)